第294話 ガイアゲン強襲

 驚いて、マレッティがそうだという奥の部屋を確認した。暗くかびくさい。ガリアの明かりを照らすと、クモの巣とネズミの糞、それに使われていない雑貨類が折り重なっており、まるで物置だった。


 なによりボイラー、つまり湯沸かし設備が無い。暖炉の上の調理台へ鍋をかけ、湯を沸かしてそれを少しずつ運んで移すしかないのだ。


 「だめだこりゃ」


 マレッティは天井を仰いだ。そんなことをしていたら風邪を引く。この時期に風邪は肺炎を起こして、死に直結しかねない。


 「あー、そうだ、ガイアゲンの本部へ行けば、大きな浴室があるかもお。あそこは大昔の貴族の館だったし、大きなサラティス式風呂があるって聴いてるわあ。いまでも使われてるのかどうかは知らないけど……」


 「それを早く云いなさいよお!」

 マレッティがでかける用意をはじめた。

 「いまから行くのお!?」

 スティッキィが呆れた声を出す。

 「せっかく火を入れたんだしい、ご飯作ってあげるわよお」

 「ご飯より先にい、お! ふ! ろ!」


 マレッティが眼を吊り上げる。スティッキィが肩をすくめて、また暖炉の火を落とす。夜も遅くなってきたが、ガイアゲンへ向かう。


 二人は、ちょうどそのころ、ガイアゲン商会の本部はメストの襲撃を受け、アーリーとカンナによる迎撃の炎雷えんらいで、とんでもないことになっているとは、知る由も無い。



 4


 マレッティたちがグラントローメラ本部を強襲しているころ、ガイアゲン本部も強襲されている。


 アーリーによって放たれた火が室内へ回り始め、煙が充満しだしてきた。割れた窓より新鮮な空気が入り、一気に黒煙が立ちのぼる。カンナが咳きこんだ。


 と。アーリー、斬竜剣ざんりゅうけんを鈍角に思い切り振って、暗殺者たちを威嚇した。すると、部屋を舐めていた炎がすべて消えた。残るのは、斬竜剣の刃を這う炎だけ。


 「ほお……」


 闇が戻り、バグルス・ブーランジュウの真紅の発光器が再び浮かぶ。ブーランジュウはその姿をついに現した。にゅう、と抜け殻より出るように、アーリーに匹敵する体格が現れる。


 ブーランジュウは、ガリア遣いへ寄生あるいは同化できるのだ! 

 アーリーに匹敵する体格が、どうしてこの小柄な女へ収まっていたのか!?


 とにかく、いまやブーランジュウの片足の先に、黒い塊となって闇渡りの力を持ったガリア遣いが……いや、ガリア遣いのなれの果てとなった肉塊があった。既に死んでいる。


 「そおぅらッ!」


 ブーランジュウ、その死体をアーリーめがけ蹴りつけ、アーリーがそれを避けたので後ろの壁に当たってひしゃげた音をだした。


 「こやつは私が相手をする、お前たちはそこの眼鏡を殺れい!」

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