第291話 強敵、油壷

 マレッティの前へ即座に四人の用心棒が立ちふさがる。いずれも高い報酬でバーケンに雇われているガリア遣いだ。そしてメストでもある! マレッティの戦いの勘と洞察力が、瞬時にこやつらのガリアの特性を見極める。二人が攻撃、二人が防御……いや、二人が攻撃、一人が補佐、一人が防御だ。防御担当はバーケンをかばいつつ、既に移動を始めている。ひとまずそっちはスティッキィへまかせる。


 「先手必勝ォ!」


 マントの下より、そいつらの顔面めがけて、強烈な閃光を浴びせた。一瞬のホワイトアウトに、暗殺者どもが顔をしかめる。網膜の焼き付けが収まる前に、リングスライサーがうなる!!


 たまらずガリアである片手中剣を両手持ちにし、交差して空気の壁を作って防御した中背で茶髪の細身の女、その風圧で光輪をはじいたはよいが運悪く隣にいた仲間の大きな手斧遣いの肩口に突き刺さって、さらに手斧遣いにむけて放った光輪がまともに脳天へ食いこんだものだから、一撃で絶命。マレッティはすかさず動いて、光輪をまとわせた細身剣で補佐と思われる一人へ躍りかかる。眼の充血した、背の低い黒髪の不気味な女だ。こやつが、さっき鍵穴を覗いたやつだろう。


 その女、なんとその手に片手持ちの油壷を持って、中身をマレッティめがけて振り撒いた。液体のガリアだ! 意表を突かれてマレッティ、フード付きマントを素早く脱ぎ去りそれを油めがけて投げつけて液体を回避! 厚い毛織マントの、液体のかかった部分が凍りつくというか石のようになって、白煙をあげ音を立てて床に落ちた。


 不思議な効果に、マレッティも瞠目する。顔を出したマレッティのその表情を、風の二剣流と油壷が間合いをとって、じわっと包囲する。


 マレッティは二人に注意しつつ、スティッキィも確認した。既にバーケンと秘書、それに商会幹部と護衛のガリア遣い、そしてスティッキィはこの部屋にいない。


 「雑魚どもにかまってるヒマはないのよおおお!!」


 憎しみと怒りに眼をむいて、マレッティは自分もバーケンを追うべく次手も全力だった。バグルスをも容易くズタズタに引き裂くマレッティのガリア、円舞光輪剣えんぶこうりんけん! こんな丙の上ていどのガリア遣いに時間をとっている場合ではない。


 暗く大きな書斎に、閃光が明滅する。視界が遮られ、ストップモーションで人間が動く。マレッティのガリアが放つ光の乱舞に、バーケン直衛のメストは幻惑されて動けない。


 もう、気が付くと目の前にマレッティがいた!

 「ギャアッ……!」


 二剣遣いが、光輪で下腹から胸元まで家畜みたいに割り切り上げられ、鮮血と臓物をぶちまいてひっくり返る。それすらストップモーションに点滅していた。


 が、マレッティ、残る油壷に目をやって驚いた。小さな片手持ちの壺より大量の油を吹き出しながら、それを頭上に掲げている。まるで噴水だ。振りまかれた油がかかって、壁から床から調度品から、次々に石のようになる。とたん、左足首に激痛が走り、油がかかったのだと分かった。ビシビシと音を立てて、足首が高質化した!


 「こいつ……!」

 室内において、真に強敵は、こっちだったかもしれない。


 マレッティは明滅を瞬時に止め、自らの周囲に光輪を回らせて防御の陣をとった。高速回転が光をまき散らし、油を弾く。だが、ガリアのちからは光ですら石化させた。石ころとなった光の粒が、ばらばらと床や壁に当たった。


 「こぉの!」


 眼を吊り上げ、マレッティが油妖怪めいた相手めがけ、光輪を叩きつけた。相手の油もガリアならば無尽蔵だ。が、油を切り裂いて石となりつつも次々に光輪が相手をねらう! 油と光輪の勝負は、それすなわちガリアとガリアの勝負であって、精神力と精神力の勝負だった。

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