第274話 大断斧の奥義

 しかしカンナ、歴戦のアーリーやマレッティのごとく、まだそこを畳みかけられない。次の攻撃をしあぐねいている間に、ダンティーナが膝に手をついてゆっくりと立った。しびれが残るため、そのまましばし回復を待った。カンナは、ただそれを眺めている。


 「いやあ……これがそうかあ……すごい力だね……でも、まだまだ初心者じゃないか……ここでトドメを刺しに来れないなんてね……」


 ダンティーナが楽しげに笑いながらそうつぶやいたが、眼が笑っていない。

 カンナはむっとして顔を歪ませた。まったくその通りなので口答えもできなかった。


 「ルバータ、いつまで震えてるんだ!? さっさとガリアを出し直して、こいつを役立たずに戻してよ!」


 まともにやりあったら勝てないと宣言しているようなものだが、戦い方など、暗殺者にはどうでもよいのだった。殺せばよい。それで金が貰える。


 カンナはルバータを振り返った。


 ルバータ、十歳下の少女に怒鳴りつけられ、怯えながらもなんとかどこかへ飛んで行ってしまったガリアを消し去り、再び手元に出現させ、何かをガリガリと削る仕草をする。とたんに、周囲の音が小さくなって、やがて何もかも静寂に包まれる。


 「…………!」

 またも、ダンティーナの口パク。共鳴が消えて、稲妻も収縮する。


 カンナはもう、迷うことなくルバータを倒してしまわなくてはいけないと決心した。しかし、殺してしまうのか、気絶させるのか、それは分からない。結果次第だ。手加減する余裕も技術もない。


 聞こえない雄たけびをあげて、カンナがダンティーナへ背を向けてルバータへ向かう。バガン! と、ルバータがいなければ音がしただろうが、いまは無音で、空間が砕け、カンナとルバータのあいだにダンティーナが割って入ってきた。びっくりして、カンナが急に立ち止まる。巨大戦斧を振り上げ、カンナめがけて叩きつける。なんとか避けるカンナ。斧は地面へ食いこみ、石畳ではなく空間を割った。割られた空間は少しずつ元へ戻るのであるが、やはりどこか元の姿とは異なる。微妙に歪み、遠近がズレて目が狂う。


 「…………」


 ダンティーナが、何かを云っている。聞こえないのに、どうしてそういう無駄なことをするのか、カンナは不思議だった。が、気づけば、カンナも云い返していた。


 「……!」

 けっきょく、何も聞こえないというのはこんなにも不安なのだと自覚する。


 ガリアなので軽々と振りかざされる巨大斧。都合がよいものだと思うが、自分の剣だって、実際の鋼の剣ならば肩が抜けるほど重いはずだった。斧自体の攻撃もさることながら、あの、謎の空間破断の波を黒剣で受けると、どうなるのだろうか?


 などと考える余裕もなく、かかとを軸にした連続回転攻撃でダンティーナがカンナを襲う。空間の裂け目がぐるぐると円を描き、まるで竜巻めいて巨大な断裂の柱を形成し、バリン、バリンという音でも聞こえてきそうな勢いで空間を破砕しながらカンナめがけて迫った!


 カンナは逃げようと思うのだがあまりの迫力と異様さに硬直して、立ちすくんでしまった。


 カンナの立ち位置に、空間破砕の柱がつっこむ! ぐちゃぐちゃのバキバキに情景の映った空間の破片をまき散らして、歪んで真っ黒の亜空間が大口を開けた。


 回転を止めたダンティーナが、斧を片手にその場にしっかりと立った。どんなもんだい、と云わんばかりの、余裕の表情だった。

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