第271話 ダンティーナ

 ガン、ガン……!


 だが、カンナは気づいた。音が近づいてくる。音に関しては、カンナだってエキスパートだ。


 ガン……!!


 これはガリアの音だ! カンナがそう気づいたとき、バギャアン! と凄まじい破砕音がして、空間が割れた。ガラスでも砕けたように風景が割れて、巨大な斧のようなものが眼前に出現する。カンナは既にガリア「雷紋黒曜共鳴剣らいもんこくようきょうめいけん」を手にしていた。


 「やあ~、きみが、サラティスのカルマ?」


 能天気な声がして、厚手の地味な野外コートを着た少女が空間の割れ目より現れた。若い。カンナと同じほどの歳に見えた。ただ、その背丈の二倍半はあろうかという、まるでアーリーですら重そうに抱えるであろう巨大戦斧を、大きな革手袋をした片手で軽々と手にしている。ガリアの斧だった。


 「なっ……なに……!?」


 カンナ、へっぴり腰で両手剣を構えて、対峙する。少女はスターラ人に特有の金がかった茶髪を短髪に切りそろえ、灰色の眼をし、冬だというのによく日焼けして、男子のようなすっきりとした顔だちをしていた。


 「盗賊団を壊滅させたその力……面白そうだから、きみにしたんだ!」

 少女がニカッ、と爽やかな笑顔を見せた。

 「?」


 しかしカンナ、何を云っているのかまるで意味不明。カンナは、そういうのが最も苦手だった。回りくどい話は大嫌いだ。イライラする。


 「わたしは……竜じゃない……なんでガリア遣いがわたしを……!?」

 「バカだなあ、きみ、賞金首だよ。メストのね!」

 黒剣が低く鳴りだす。眼も据わっていた。


 「……どうせバカですよ! 来なさいよ、暗殺者だっていうんでしょ? 返り討ちにしてやるんだから!」


 「バーカ、情報は入ってるんだよ! 誰が一人で来るもんか! こっちだって、カルマ相手に油断はしてないよ!」


 「またバカって云った!!」


 カンナ、一気に共鳴を膨らませる。ヴヴウウウ、とサイレンめいて低音が響き、雷撃が少女を襲った。


 少女、名をダンティーナという。歳はカンナのひとつ上の十五。ガリアは「豪刃大断斧ごうはだいだんぷ」という。バーケン配下のフルトにして暗殺者だった。


 「あらよっとい」


 軽々と巨大な斧を楯代わりに、ダンティーナが稲妻の放射を防ぐ。そしてそれを豪快に振り回し、何かをカンナへ向けて飛ばしつけた。


 色のついた風にも見えたが、弓字になった「何か」が、空間を引き裂きながらカンナへ向かう。カンナはわけが分からず硬直した。が、黒剣が自ら動いた。バアン!! という音圧がカンナを弾いて、カンナはふっとばされて地面へ転がった。斧の刃から飛びでたそれは、カンナのいた場所を削りながら飛んでやがて空間の途中で止まり、引き裂かれた空間の裂け目は、バチバチと音を立てて少しずつ閉じ、やがて消えた。


 「……!? !? ……!?」


 カンナは恐怖した。何が起こっているのかまるで分からない。あの歪んだ裂け目に触れると、どうなるのだろう。

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