第239話 たやすい決着

 「二人とも、熱したよ! 次できめるんだ!」


 見ると、ヨーナの剣身が灼熱に光っていた。まるで焼きごてだ。このガリアは炎熱の剣だが、ここまで熱するのにちょいと時間がかるのが欠点だった。が、もう完全に熱した。これで叩かれては、とんでもないダメージをくらうだろう。


 「あの白い顔を、ぐちゃぐちゃに焼いてやる……!!」


 ヨーナの顔が残忍に歪む。そもそも、こやつはガリアを遣った拷問に興じる女だった。特にカンナほどの少女を意味もなくいたぶるのが、大のお好みだ。


 「変な癖は後にしな……返り討ちにあうよ」

 クラリアがまだ減らず口をきく。

 「かっこつけやがって……あんたがびびんなきゃ、あいつ、いまごろ窒息してるよ」

 「うるさいんだよ! 年下の癖に生意気なんだ! 誰がかしらだと思って……」

 「二人とも……いいかげんにしてよ!」


 三人が何やら云い合っているうちにカンナ、ボーラに締めつけられながらも、完全に息を吹き返した。もう同じ手はくわない。自由の利かない腕のまま、黒剣を三人へ向けて共鳴させる。もう侮らない。どんな敵でも。


 すぐに共鳴がくる。


 大地をふるわせる振動に、三人がぎょっとしてカンナを見やった。カンナの肉体より電光が立ちのぼっている。三人とも、当然カンナの「力」は稲妻だと思っている。


 「ちょっと、復活したよ……!!」

 「かまうものか……一気に距離を詰めるんだ!」


 三人がここにきて絶妙な連携を見せ、少しずつタイミングをずらしながら三方から回りこんだ。


 クラリアがガリアをさらに締めつけ、カンナの足を止めた。そこにカロリアーヌが肉薄、風切りを飛ばしつけつつ、カンナの息を再び止めに入った。


 カンナがぐっと息をつまらせて前のめりになった瞬間を見極め、灼熱剣を振りかざし、ヨーナが真正面から吶喊とっかんする!


 ヴォグアァ!!


 空気が爆発し、ヨーナの肉体がひしゃげ、百キュルト(約十メートル)も凄まじい速度でぶっとんで砦の石壁に叩きつけられる。骨も何も砕け、真っ赤な肉塊となって内臓と血液と骨片をまき散らして、死屍累々となっている盗賊たちの仲間入りをした。まるで数百キュルト上空から落下したかのごとくだ。


 衝撃波をくらい、同じく吹き飛ばされて地面を転がったカロリアーヌとクラリアは、ヨーナの惨劇を確認する間も無かった。カロリアーヌは耳をやられ、何も聴こえなくなって疼痛とんつうに苦しんだ。ガリアも消えてしまった。こんなはずでは……こんなはずではなかった。このメガネの餓鬼をたやすく殺して、裏社会で名を知らぬものはないメストとしてやり直せるはずだった。


 血のあふれ出る耳を押さえ、歯を食いしばって振り返ると、ガリアの皮紐を雷で焼き切ったカンナが、無防備なクラリアへ襲いかかっているのが見えた。悲鳴は聴こえない。何も聴こえない。何も。カンナの黒い剣……雷紋黒曜共鳴剣らいもんこくようきょうめいけんがクラリアの胸板を貫いて、雷撃がその肉体を焼き尽くす様が、全て無音で行われていた。クラリアの顔が恐怖と苦痛で人とは思えぬほど歪みきって、黒焦げとなって崩れた。


 自分でなにかを叫んだが、何も聴こえなかった。カロリアーヌは恐慌状態となって言葉も無く獣のように喚いて、自分ではその音を聞くことができず、とにかく逃げ出した。とたん、全身をとてつもない衝撃と熱が貫いて、脳天から爪先まで裂かれたかに思ったら、一撃で意識が無くなった。そして二度と目を覚まさなかった。

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