第237話 盗賊団の用心棒たち

 「こっ、こ、こ、こいつ、とんでもねえ!」


 まだ生き残っている盗賊たち、逃げるに逃げられず、恐怖に凍りつき、震えて立ち尽くすのみだった。カンナの稲妻と低い音響がさらに膨れ上がる。


 「バ、ババ、バケモノだあ!!」

 そこへ、三人の女が飛びでてきた。


 一人は見るからに壮年で、四十ほどか。二人はその部下と思しき若い女。若いといっても、三十代と、二十代ではあるが。三人とも濃さはあるもののスターラ人ぽい茶色から茶金の髪で、長さも適当に肩までや背中までのものを無造作に縛っていた。ただ、服装だけは、三人とも盗賊とは思えないほどに整った、ぴしっとしたものだった。


 「こいつは、なんなんだ!? こんなガリア遣いは……!」


 雇われガリア遣いの頭であるカロリアーヌ、ガリア遣いにしては年かさだが、その通り、これまでろくに竜と戦ってもいない。そもそも自分より強いものとは戦わない。流れ流れて、いまは盗賊団の用心棒をしている。ガリア遣いとしては、ド三流といったところだろう。それは、残る二人も同じだった。


 だが、眼前の人間離れしたカンナのガリアを観て、ぴんときた。

 (さては……こいつが、あの人の云っていた……!?)

 カロリアーヌはつばをのんだ。


 「おい……おまえたち、覚悟をきめるんだよ。こいつがもしかしたら、試験の相手かもしれない。こいつを倒せば、メストに入れるかも……?」


 「なんだって!?」


 真ん中の歳であるヨーナが叫ぶ。そんな話は、聞いていなかった。隣の、最も若いクラリアへ目線を移したが、クラリアも首を横に振った。


 「だけど……こいつを倒す……!?」


 ヨーナは、稲妻に包まれて自分たちをにらみつける黒髪にメガネの少女を、恐ろしげに見つめた。


 彼女たち、下の下の無頼ガリア遣いだとしても、別にガリアが弱いわけではない。彼女たちの心が弱いのだった。竜とも、ガリア遣いとも命をかけて戦えない。ガリアを上手く遣えない。何の力もない一般人にガリアを誇示し、威張り散らすのが似合っている。盗賊の用心棒になるべくしてなっている。


 だが、カロリアーヌとて野心くらいはある。暗殺者として名を上げたかった。そのためには、どうしてもメストとして認められなくてはならない。フリーの暗殺者では、大きな仕事は回ってこない。なんにせよ、小さいままだ。


 「クラリア、あいつの足を止めな。私がなんとか息をつまらせてみせる。その隙に、ヨーナ、剣を熱しておくんだよ!」


 「本気でやるの!?」

 クラリアが目を丸くする。

 「あたしはメストなんかより、命が惜しい」

 「そりゃ、みんな同じだ。頃合いは見計らうつもりだよ……」

 カロリアーヌの言葉に、二人とも安心したのか、素早く展開した。

 カンナは、周囲に広がった三人のガリア遣いをねめまわした。


 まず油断無くガリアを観る。二人は片手剣だった。一人は凡庸な剣、一人は剣身に牙のような突起が二つ、刃の部分より飛びでている。最後の一人は……皮紐の両端に丸いおもりのついた知らない武器だが、投げ道具のように感じた。これはボーラという、狩猟や投擲とうてきに遣う古い武器である。

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