第191話 ギロアの力

 牙を剥いた顔がもとに戻り、いつものギロアの調子で片目をつむって見せる。人間など一撃で引きちぎりそうな大きな竜爪りゅうそうはそのままに、その人指し指を口元に当てた。


 「デリナ…………?」


 マレッティの眼が陰鬱な鈍い光をたたえた。まさかギロア、マレッティがデリナと通じているとは思わない。


 「ところでカルマさん、あなたはどうしてバセッタのことを知ってるのかしら? やっぱりアーリーに聴いたの?」


 「なんだっていいのよバグルス。いま殺してやるわあ」

 「あら、急に恐いこと」

 ギロアの眼も赤く光を反射する。三本の角にまで紅い線が現れ、鈍く光った。

 「でも……できるのかしら?」

 「できるにきまってんでしょおがあ!」


 マレッティが細身剣を振りかざし、光輪が乱れ飛ぶ。場が狭いので動きに制限がつくと思われたが、結晶の表面に発射して縦横無尽に飛び回ってギロアを襲った!


 「……!?」


 息を飲んで固まったのはマレッティだった。まさに蜂のごとく襲いかかる光輪が、ギロアの周囲になるとまるで蝶のようにふわふわと空中に漂いだし、踊りめいた優雅な動きのギロアの竜爪で次々に叩き落とされ、霧散して消える。


 「え……」

 「おしまい?」


 にこり、と笑ってギロア、両手をまた大きく広げたまま下段に構え、額と側頭部の角をゆっくりとマレッティへ向けて首を振って見得を切り、流し目をくれる。明らかにばかにされたと分かったマレッティ、歯ぎしりして倍の数を出しつける。


 しかし冷静だった。


 直接正面、上方、足元から滑りこませ、背後と左右の結晶面にも反射させ、さらに洞穴天井の鍾乳石を切って落とした。ギロアがまた両手を軽やかに動かすと光輪はその速度を落とし、容易に払われる。が、上方から落ちてきた鍾乳石はそのまま落ちてきて、ギロアがその気配にあわてて身をよじってよけながら振り向き、竜爪で砕いた。


 (ふうん……ガリアを……いや、ガリアの効果を操る力か何か……ってこと? バグルスもあんなになると、そんな変な力を得るのかしら……?)


 マレッティに笑みが出る。逆に、ギロアには険しい顔だ。

 「どうしたのかしらあ? 手品の種でも見破られたあ? バグルスちゃん」

 「ギロアよ」

 「バグルスのくせに名前なんて生意気なんだってえの!!」

 「うるさいわね、カルマ!」

 「マレッティだって何度も云ってるでしょお!」

 マレッティ、後ろの二人を向き、

 「あんたら、出番よ。三人同時に攻撃してみるわあ」

 ニエッタがひきつった声を発した。パジャーラは固まって息もできない。

 「あ、あたしら、バグルスと戦ったことなんか……」

 「だれだって最初は無いのよお」

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