第182話 トケトケ

 「だが、カルマの報酬は高いぞ。お前達に払えるのか?」

 「払えますとも!」

 「ほう……」


 「さいきんは、昔みてえなニシン御殿だ、タラ御殿だを建てるという風潮でもねえし、いつ竜のせいで魚がとれなくなるかもしれねえから、あけのパーキャスで貯めこんでるんでさあ。カスタ金貨の二百や、三百は余裕で」


 「なるほど」


 「それに、あのバグルスめいた女や、ガリア遣いどもがいなくなったら、殴りこんで勝負つけてやりますよ! あいつらの縄張りを奪って、また稼げばいい!」


 「おれたち、パーキャスを元の姿に戻したいのです!」


 ウベールが力説する。暁のパーキャスとは、いわゆる、バーレスの保守派の青年団というものだ。


 「コンガルの人々も、パーキャスの民……元は仲間ではないのか?」

 「とんでもねえ!!」

 何人かが立ち上がって、同時に叫んだ。興奮し、紅潮している。


 「十年も前に袂を別った連中でさ! あいつら竜をけしかけて、おれたちの仲間や身内を何人も殺してやがる! この手で連中をぶっ殺して、仇を討つ権利があるんでさ!」


 「ウベールは、女房、子どもも殺されてるんで!」

 ウベールの肩へ手をおき、その髭面が涙目でアーリーへ訴える。

 「そうか」

 呆気なくアーリーが云い、立ち上がった。もう、男達を見ていなかった。

 「それは、私には関係の無いことだ。好きにしろ」

 そして、建物を後にした。やや呆然として、面々はアーリーを見送った。

 


 アーリーはその足でまた出張所へ戻った。

 「どうなりました?」

 職員がそう尋ね、固唾をのんだ。

 「退治を請け負う。ニエッタとパジャーラを呼んでもらいたい」

 「ト、トケトケはどうします?」

 「あの娘はサラティスのバスクではない。任意になるが、そうだな……呼んでもらおうか」


 職員の小太りのおやじが汗を拭きながら上着を着込み、外に出た。そして半刻(約一時間)もしないうちに、三人が集まる。ニエッタとパジャーラは、何事かとびくびくしていた。


 「コンガルへ行き、バグルス退治を行う。サラティスのバスクならば、協力を願いたい」

 「セ、セチュをやれっていうんですか?」


 「そうだ。断ってもかまわないが、いまが連中を排除する機会だ。ガリア遣いは一人でも多い方がいい」


 そう云って、アーリーはトケトケを見た。トケトケもアーリーに負けぬほど鋭い眼の光で、視線を弾き返す。


 「あたしはかまわないわけ」

 「トケトケ……!」


 ニエッタが、何を云ってるんだお前、という眼でトケトケを見つめ、たまらず肩に手を当てた。三人は、既にシロンを通じてギロアから金を受け取っている。これでは、二重の裏切りだ。


 「いまはでしょ」

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