第158話 コンガル料理

 「はいはい、かんぱーい」


 バルビィがジョッキを当て、そのまま半分ほど一気に流しこむ。カンナも恐る恐るなめてみたが、思ったより甘く、飲みやすかった。強い匂いというか、クセはあったが。


 「かあー、エールだけはうまいぜ、ここはよ」

 バルビィがにやっとして、口元の泡を葉巻をもつ手でふいた。

 「おれの料理がまずいとは、はじめてきいたな」


 魚介のスープ料理と、素揚げしてハーブ塩で味付けした白身魚の切り身、そして魚肉団子の魚醤焼きが並ぶ。雑穀粥と、さらに、牡蛎の焼き物も出た。


 「食おうぜ」


 葉巻を消し、バルビィが豪快に木のスプーンで、魚介の脂とエキスが存分にしみ出たスープをかっこむ。カンナもそれへ続いた。どちらにしろ、腹がすいている。


 「おいしい」 

 カンナは機嫌がよくなり、次々にそれらを口に入れる。

 「いい食いっぷりだ」

 二人はしばし、食べ、飲んだ。

 「いやあ、食ったねえ」


 バルビィが三杯目のエールを傾けて、再び葉巻をける。カンナはまだ最初のジョッキをなめていた。


 「無理にのむこたねえよ。こういうのは、少しずつ味がわかるのが楽しいんだ」

 「それなら、茶あでも飲みな。うちのババアの特製だ」


 おやじが、ハーブティーを出した。バーレスで飲んだものとも異なる味がする。使っているハーブがちがうのだろう。


 「ありがとうございます」


 カンナの精神がだいぶんほどけたのを頃合いに、バルビィは満足そうに話をきりだした。


 「食い道楽に悪いやつはいねえよ。そうだろ? 風呂にでもいこうぜ。そこでゆっくり、さっきの話の続きだ」


 バルビィがなにやらスターラの小さな銀の粒を払って、店を出た。すっかり暗くなっている。カンナは高い星空を見上げた。もう、息が白い。アーリー達が心配しているだろうが、そもそも、どうやって自分は気を失ったのか思い出せない。


 「ねえ……わたし、あなたと戦って……どうやって……?」


 「あ? ……(おぼえてねえのか)……ああと、そうだな。マウーラってやつが、あんたを殴りつけたんだよ」


 「そうだっ……け?」


 「なんでもいいやな。本気じゃなかったからよ。本気だったら、あんた、いまごろ死んでるぜ。タオルをもったか? 公営の風呂だからタダだぜ。その変わり設備がなんにもねえんだ。タオルと、歯磨きをもってな。コップも持っていけよ」


 バルビィの家に寄り、すべて貸してくれた。何かと世話焼きなのだろうか。それとも、魂胆があるのか。魂胆があるに決まっている、と思った。


 ランタンを持って、二人はすっかり人通りの無くなった夜道を歩いた。町外れの海岸ぞいに、その公営浴場はあるという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る