第147話 メストのシロン

 やおら、アーリーを中心に猛烈な輻射の熱波と光が広がり、巨大な火球が振りかざされ、斬竜剣にまとわりついた。そのまま楯遣いめがけ振り下ろされるも、なんと、それを再び真正面から受けた楯より放たれた衝撃波が、火炎の塊を一撃で破壊し、散らした。


 「ふうむ……」

 ア-リー、瞠目せざるをえぬ。



 アーリーと楯遣いの攻防を見やっていたマレッティに、白い服の女が急に間合いをつめた。その硝子の……いや、氷のメイスを、マレッティは思い出した。その、花びらの紋様が刻まれた青く透明なメイスを。


 「凍結粉砕……!」

 女の動きが止まる。やおら、スターラ語で話しかけた。

 「貴様、スターラ人か。我がガリアを知っているのか」


 およそ人間味の無い、冷えきった声と顔つきに、マレッティの感性がこいつは嫌で危険なやつと認識した。眼が、まぎれもない、人殺しの眼だった。


 「知ってるわよお。メストのシロン」


 マレッティもスターラ語で返す。しばらくぶりに話す言語だった。シロンの眼が、細くそして鈍く光った。


 「……そこまで知っているとはな……」


 「いやはや、メストの筆頭さんが、こんな辺鄙な場所になんの御用かしらあ? 誰を暗殺しに来たのお?」


 「……殺すしかないようだな」

 「やあねえ、最初からそのつもりのくせにい」

 「存分に死ね!!」


 シロンがメイス、ガリア「花弁文硝子状氷砕棍かべんもんがらすじょうひょうさいこん」を投げつける。いや、その先端が飛びでて宙を舞い、マレッティを襲った。鎖分銅のような動きをして、シロンの手の動きにあわせ急に上空に躍り上がったと思ったら空へ溶けこみ、見えなくなって直上からマレッティを襲う。


 マレッティが砂浜を転がりながらそれをよけた。バアン!! と破裂音がして、砂浜が大きく陥没し、しかも凍りついていた。


 浮遊する棍の先端が素早く戻ってゆく。

 「さすがに、いい動きだ、サラティスのカルマ」

 マレッティの目つきが変わる。

 「……ちょっとあんた、なんであたしがカルマだと!?」

 「死人が知る必要はない」

 「こぉのッ!」


 マレッティが地味な細身刺突剣、円舞光輪剣えんぶこうりんけんより光輪をまき散らした。風に乗って四方からシロンを襲う。岩石、いや、鋼鉄すら切り裂く、必殺のガリアだ。


 しかし、シロンがメイスを振りかざす。凍てついた力が、光の輪ですら凍らせ、連続して粉砕、いや、爆砕した。


 「……なんですって……」

 キラキラと反射して砕け散り、霧散した我がガリアを見て、マレッティは愕然とする。

 「お前もこうなるのだ。大人しくしていれば、苦痛無く死ねる。どうだ?」

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