第131話 パーキャス到着

 名残をおしむかのように島をぐるりと周り、風向きを見計らって沖へ出る。周囲には同じような島が点在して、アーリーやカンナはたちまち自分の位置が分からなくなった。が、リネットはちがうらしい。一目散に島々の間を抜ける。


 マレッティは船縁に肘をつき、最初から自分たちの位置などどうでも良いというふうな仏頂面でその様子をみつめていた。


 それが、具合が悪いのではないかとカンナは思った。

 「マレッティ、だいじょうぶなの?」

 「おかげさまで、かなり泳がせてもらったから。慣れたわよ。浮環うきわもあるしねえ」

 確かに、マレッティは既に長い紐付きの大きな木の浮環うきわを腰に回している。


 風が思いのほか強く、またリネットの帆さばきのうまさで、艇は波間を滑るように進んだ。さらに、うまく海流に乗ったようで、ますます速度が上がり、波を跳ねてときおり大きく飛び上がって、海面に叩きつけられ水飛沫を周囲へまき散らす。


 「っ……う……!! ……さすがに……ちょっとこれは……」


 マレッティが眼をつむって船縁へしがみつく。カンナもあのタータンカ号の遭難を思い出して肝が冷えた。


 「調子よく飛ばしているが……竜に気づかれないか、リネット」


 アーリーも心配そうに海原を見渡す。アーリーの大剣の業前は、両脚がしっかりと大地に立ってこそ大いなる威力を発する。こんな狭いボートでは、どうにもならない。ましてカンナは、稲妻の黒い剣など、出そうとも思えなかった。


 (ああ、だめだめだめ、そんなんじゃだめ! なんとかしなきゃ、なんとか!!)


 出してもいい。稲妻を出さずに、本来の力である音響だけで戦えば良いのである。発想の転換をしなくては。自分のガリアは、雷の剣ではないのだ。あくまで雷は、轟鳴のついでなのだ。


 やがて日が西へ傾きだすと、波も納まってきて、船はさらに快調に進んだ。そして、思ったより早く、バーレス群島の都、バーレスの港が見えてきた。


 リネットは帆を半分下ろしてスピードを落とすと、静かに港へ向かった。良く見ると周囲には漁船らしきディンギー船も何隻か見えた。リネットはそれらへ挨拶をしながら、難なく港へ艇を滑りこませた。指定の小型船溜こがたふなだまりに入り、自分の場所へゆっくり近づくと、オールを出してさらに静かに進む。やがて桟橋へ到着し、リネットは見事な手さばきでとある船のとなりに救命艇をつけた。


 「これがボクの船さ。さ、乗り移って」


 まず三人がリネットの船へ移り、そこから桟橋へ移った。リネットは手早くロープで自分の船と救命艇を結びつける。四人は、バーレスへ上陸した。 


 「じゃ、ボクはこれで」

 リネットが手を振る。アーリーがカルマを代表して前に出た。

 「ああ。世話になった。ありがとう。請求書を回すのを忘れるなよ」

 「もちろんさ」

 最後までリネットは涼しげな調子で、港町をどこかへ消えてしまった。

 「で、あたしたちはどうするのお? アーリー」


 「まずは宿だ。久々に寝床で寝たいだろう。それから、ベルガン行きの船を探さなくては」


 「ま、そうなるわねえ。カンナちゃんもそれでいいでしょお?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る