第128話 小島の露天風呂

 「なんとか人心地つきましたねえ……」


 食べ終えたカンナは、水を飲み、改めてがっくりと疲れが出て、へたりこんだ。波で削られてすべすべになった丸石だらけの上なので、尻が痛い。


 「相変わらず余裕ねえ。人心地もいいけどお、ここは一体全体、どこなわけ?」


 「夜になって星が見えれば、だいたいの位置はわかるよ。風景からすると、たぶんパーキャスのどこかだと思うけど」


 「パーキャスぅ!? なんでそんなところにいるわけえ!?」

 マレッティの声にも張りが戻っている。


 「夜の内に、だいぶん流されてたみたいだね。竜の縄張りにつっこんだんだよ。船長も、ちゃんとボクの云うことをきいておけば、死なずにすんだのにね」


 リネットが屈託の無い爽やかな笑顔でそう云って笑ったので、マレッティは眉をひそめた。


 (純真そうなカオして、物騒なこと云うのねえ……あんまりこいつとは深入りしないでおこうっと……)


 その夜、残念ながら雲は晴れなかった。

 翌日も曇っていた。

 その翌日も、であった。

 さらに翌日も分厚い雲が全員の心に重しをかけた。

 「水が無くなってきた……」

 アーリーが樽を覗きこんでつぶやいた。

 「他に、漂流物はないのお? アーリー」

 「油樽ならあったが……水は無い」

 「どうするのよお。ひからびちゃうわよお」

 「分かっている」


 アーリーの顔も渋くなる。毎日風と潮に吹きすさび、顔は皮が裂けるというほどにつっぱり、髪も信じられないほどにゴワゴワしていた。湯とまではゆかずとも水浴びがしたい。服に到っては、である。


 「ただいま、こんなにとれましたよ」


 カンナとリネットが、またもバケツいっぱいの甲殻・貝類を獲ってくる。マレッティはもううんざりだという顔を隠さなかった。


 「毎日毎日、貝ばっかり食べてらんないわよお! このままじゃ、いつかみんな野垂れ死にだわ! なんとかなんないのお!?」


 「……だいじょうぶさ、そう眼を尖らせないで。風の向きが変わってきてる。今夜はたぶん晴れるよ。それと、マレッティ、向こうで海の中に湧く温泉を見つけたよ。出発の前に、お風呂であたたまろうよ」


 「海からお湯が沸いてるう!? 本気で云ってるの!?」

 「ホントです、わたしも確かめました! 海水と混じって、ちょうどいい温度でしたよ」

 カンナが嬉しそうに顔をほころばせる。

 「よし、では、さっそく向かうとしよう!」


 アーリーまで浮足だちはじめた。風呂ときいて心踊らないサラティス人はいない。出身はどこであれ、すっかりサラティスの人となった三人は、いてもたってもいられず、リネットを急かして湯の湧き出るという海岸へ向かわんとする。

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