第127話 サヴァイバル

 5

 

 「ま、水でも飲め」

 「塩水ならいやというほどのんだわよ、アーリー」

 「だから、喉が渇いただろう」

 「どうしたの、それ」

 マレッティは、アーリーの後ろに、大きな樽があるのを見いだした。水樽だ。

 「タータンカ号の漂流物が海岸にたどりついている。新鮮な水だぞ」

 「いただくわ」

 アーリーが真鍮のカップも差し出した。これも漂流物だろうか。


 樽の上蓋はアーリーが破壊しており、真水が樽に満ちていた。つめたく、身体が冷えたが美味だった。マレッティは貪るようにのんだ。


 たっぷりとのんで、息をついていると、洞穴の入り口に人の気配がした。

 「やあ、気がついたんだね。よかった」

 マレッティが身構えて振り返った。

 「あんた……」

 「リネットだよ。覚えてる?」

 「覚えてるわよ、なんであんたがここに?」

 「リネットが我々を助けたんだ」

 アーリーの言葉に、マレッティが驚きの表情をみせた。


 「彼女があの状況下で救命艇を巧みに操り、まずカンナを引き上げた。それから、おまえをつかんで漂流していた私を発見して、素早く艇を寄せ、我々を救ってくれたのだ。あの破壊され沈みゆくタータンカ号から救命艇を出したのも見事だが、操船技術も素晴らしい」


 珍しくアーリーがべた褒めしている。マレッティはそちらにも驚きを隠さない。

 「それはどうも……ありがと。他の船員は助けなかったの?」

 リネットが首を振る。

 「むしろ、無事だったのは君たちだけさ。さすが、歴戦のガリア遣いだね」

 「ところで、それはなによ?」


 同じく漂流したであろう木のバケツに、リネットが何かを入れてもっている。見ると、大きなウニ、手ほどもあるムール貝、それに顔より大きいカニが何匹か、いた。


 「獲ってきたの!?」

 「そうさ。水もあるし、鍋があればスープにできるんだけど、素焼きで我慢してよ」


 云うが、リネットがたき火の中へ無造作にそれらを投げ入れる。すくに、香ばしい食欲をそそる匂いがたちこめた。


 不思議なことに、その匂いがしたとたん、カンナの震えが止まった。

 「いやねえ、カンナちゃん、食い気で震えが止まるなんて」

 「でも……おなかがすきましたので」

 カンナは自分でも驚くほどに、食欲が全てを上回った。


 やがて良い感じに熱が回った頃合いを見て、リネットが小枝を器用に扱ってそれらを炎より取り出すと、三人へ配った。


 マレッティ、カンナとも、最初はこの荒々しい原始的に調理された魚介に戸惑っていたが、いざ口にするともうたまらない。ただ焼いただけの貝やウニが、はらわたの芯まで染みた。この熱さが、命をつないでいると実感した。アーリーに到っては、殻ごとカニを貪っている。

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