第77話 突入開始

 「いや、あの……あのですね……」

 緊張して汗が吹き出る。眼鏡がずるずると下がった。

 「ま、座れ」

 「は、はは、はい」

 アーリーの横へ腰を下ろす。地面の感触が尻へ冷たかった。


 「マレッティの光輪剣こうりんけんが敵を引きつける。マレッティが云うのなら、自信があるのだろう。私が一目散にデリナめがけてつっこむ。しかし、結着はつくまい。なるべくやつへ手傷を与えてみせる。……トドメはカンナが刺すんだ」


 「はいっ」

 思わず答えてから、カンナは息をのんだ。

 「……いや! えっ!? ……だッ、だ、だめです! むむむ無理です!」


 アーリーへ、自分はどのようにアーリーを手伝えばよいのか聴こうと思ったが、それを見越しての、まさかの言葉だった。


 「無理も何も無い! 三人しかいないのだぞ! カンナがやらないのなら、誰がやる!?」


 初めて聴く、アーリーの強い口調。その炎のような瞳が、カンナを射抜いた。口を開け、息が止まって、カンナは全身が震えだした。


 その背中を、アーリーが力強い手で叩いた。眼鏡が飛び、息が戻った。


 「自分のガリアを信じろ。ガリアを信じることは、自分を信じることだ。そして自分を保て。竜に呑まれるな。己のガリアに呑まれるな。自分の気持ちに呑まれるな」


 アーリーの言葉が、アートと重なった。カンナは不思議な安心に包まれた。

 「はい」

 心臓の高鳴りが、治まってゆく。

 夕日が、二人を赤く染めた。

 


 4


 夜になって雲が多かったが、月が出た。風はなかった。夜でも蒸し暑い。独特の竜の臭いが集合し、夜の闇に充満している。


 三人はアーリーを先頭に深夜半の荒野を進んだ。この時期、朝までは短い。一気につっこんで、一気に勝負を決めなくてはならない。


 「アーリー、どこに敵の大将がいるか、分かってるのお?」

 まだ距離はあるが、思わずマレッティの声も囁きとなった。


 「おそらく陣の中央だ。近くになったら確認する。ぎりぎりまでガリアは出すな。駆逐竜に発見される」


 「分かってるわよお。突撃命令はアーリーが出してね。いいこと、カンナちゃん、打ち合わせの通りに、ね」


 はい、と云おうとしてカンナは声が出なかった。いざこうして出撃すると、やはり目が回るほど鼓動が激しい。


 竜の軍団といっても、人間の兵士のそれではない。竜たちは半ルットほどの範囲で、めいめい、好きなところで立ったまま休んだり、寝そべったりしている。中には起きていてうろうろしているものも多い。三人はひそやかにそのあいまを駆け抜けた。縄張りへの侵入者へ気づいた竜の何頭かが、次第に鳴きだして騒ぐ。騒ぎが陣へ広まって行く。


 「そろそろ、頃合いじゃなあい!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る