第73話 黒猫

 「はあああああ!?」

 「お前のガリアは集団戦に向いていない」

 「でも……!!」


 フレイラはしかし、グッと言葉を呑み込んで、無言で同意の意思を示した。だが、その眼は憎々しげにアーリーをみつめている。カンナは心臓が高鳴りすぎて、目眩がしてきた。


 「ま、そういうことお。しっかり役立たず共を束ねてちょうだい。私たちがいくら本陣へ吶喊をかましたって、多勢に無勢。余った竜は都市を襲うのだから……。カルマが一人残るのも手よお」


 マレッティがフレイラの肩を叩いてそう云うと、

 「じゃ、明日の朝イチねえ。準備しておくから」


 螺旋階段を下りた。アーリーも無言で続く。カンナはフレイラへ何か云いかけたが、フレイラが無視してアーリーに続いたので、また下女たちが後片付けをして最上階の広間を閉じるまでそこに立ち尽くしていた。


 

 その深夜。カンナがこっそりと自室を出て、中階から塔の下層広間に下りたところで、物陰からフレイラが現れた。


 「おい、ハズレ。クソバカ大ハズレ」

 「えっ?」


 半月ぶりにカンナへフレイラが話しかけたと思ったら、虫と話しているような目つきと声だった。


 「わたし……のこと、ですよね……」

 「お前以外に誰がいるんだよ。どこへ行くんだ」

 「に、逃げるわけじゃありませんよ……」

 「逃げたってかまわねえぜ。いや、いっそ、どこかへ行っちまえよ」

 「えっ?」 


 「つまりだ。……なあ、お前が残れよ。オレと入れ代われ。アーリーさんに直訴しろ。戦いたくありませんってな」


 「え、いやっ、でも……」

 「いいから。死にたくねえだろ?」

 「そりゃ、死にたくありませんよ」

 「出てったら死ぬぞ。だから、残れ。お前が残るんだ」


 これは、フレイラの優しさなのだろうか。それとも。カンナはどうしてよいか分からなかった。泣きそうな顔になる。


 「めそってんじゃねえよ。お前なんか奇襲に加わったって、足手まといなのがわからねえのか。塔の外で、何を学んできたんだ。いいから、さっさとアーリーさんに云えよ!」


 「うるさいんだけど。こんな夜中になんの話し合いかしら」


 事務机から声がした。近くのソファで仮眠をとっていた黒猫が起き上がる。ランタンに火を入れ、その眼鏡が不気味に浮かび上がった。


 「黒猫……事務職員は黙ってろよ。バスク同士の話だぞ」


 「残念ね。事務やってるけど、私もバスクなの。可能性は77……所属はしてないけど、コーヴ級よ」 

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