第51話 内通者

 蛇のように絡んでくるマラカの腕を払いながら、カンナは身をよじった。


 「で、ここからが本題ですが……カンナどのは、カルマに戻ってください。そして、カルマの裏切り者を探す」


 「はあ!?」

 「サラティス侵攻軍総司令官デリナと通じている人物が、カルマにいます」

 カンナは失笑し、首を振った。ばかばかしすぎて話にならない。

 「うそばっかり。そんな人、いるわけない」

 「信じませんか?」

 「信じられるわけないでしょ」

 「拙者の情報を信じない? 都市政府御用達ですよ?」

 「だから、なんですか?」


 「では……これはどうです? カンナどの。……カンナどのは、ウガマールの奥院宮おくいんのみやから派遣されて、来、ま、し、た、よね?」


 楽しげにマラカが小声を出す。カンナは眼と鼻の穴と口をまん丸に開き、 

 「なんで知っ!!」

 すかさずカンナの口へ手を当てる。

 「お、し、ず、か、に……みんな見てますよ」

 カンナはわなわなと湯の中で震えだした。

 「な……なんで……」


 「情報収集専門の斥候バスクだと云ったでしょ。情報こそ我が命。拙者は、直接には竜を滅多に倒しませんが、竜の情報を仕入れて間接的に倒すんです。そういうバスクもいるのです。さて……ウガマール奥院宮のことまで知っている拙者の言を信じませんか? カンナどのの本名もここで云いましょうか?」


 カンナが息をのむ。そんなばかな。まさか。

 「……カ、ン、ナ……」

 マラカが眼をほそめた。

 「カー……」


 ム、を声に出さず、口の形だけ作る。その口づけのような口でカンナへすうっと近づいたので、カンナはあわてて押さえた。


 「分かった、分かりました。わっかりました」

 カンナは恐れ入った。こんなバスクもいるのか。マラカが声を出さずに笑った。

 「信じていただき、感謝感激です、カンナどの」

 「でも……いまからカルマにどうやって……」


 「大丈夫ですよ。ちゃんと戻れます。なにせ、カルマとて人手不足には変わりありません。たかが数日、カンナどのが少しでも成長して戻ったら、アーリーどのは喜びますよ。同じダール同士、アーリーどのが内通者かもしれませんが」


 「ありえないわよ」

 「それを、探ってください」

 「自信ない」

 「……バスクとは限りません。職員の中にいるのかも……」

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