第47話 講義

 「バグルスは、なんのためにいるの?」

 「えっ?」

 アートはコーヒーを一口すすり、

 「なんのためって云われてもな。複数の竜を統率するとは、聴いているが」

 「誰が作ってるの? 人工的に作られたダールなんでしょう?」

 「誰って云われてもね」

 アートは苦笑しつつ、コーヒーを飲み干した。

 「知らないな」

 「そうよね……」

 「それより、カンナのガリアは、なんていうんだ? まだ教えてもらってなかったな」


 カンナは耳を赤くして横をむいた。大層な銘を最初につけてしまうと、遣えなくなってから恥ずかしい思いをする。


 「……雷紋らいもん……黒曜こくよう……共鳴剣きょうめいけん

 「難しい名前だな」

 「わたしがつけたんじゃない。……いや、少し、つけた」

 「共鳴ってなんだよ」

 それだ。問題はそれだった。

 「ねえ、アート……。アートは、自分のガリアの力を全部分かる? ちゃんと遣えてる?」

 「分かるさ」

 アートは即答した。


 「ふつう、最初から分かる。分からないのは、段階的に色々な力を発揮するガリアだな。そういうガリアを持つ人はいるよ。それは、自分で探して行くしかない。他人にゃ分からない。ガリアってのは、その人の心の問題だからな」


 「だよねえ……」

 「何が問題なんだ。クィーカ、コーヒーのお代わりをくれ」


 クィーカが黙って、アートのカップをとってコーヒーを淹れる。クィーカにとっても、ガリアの教習だった。


 「共鳴剣って、わたしがつけたんだけど……稲妻が出るとき、強く自分と剣が共鳴するの。こう……ヴヴヴ、って。けど、なかなか共鳴しない。共鳴の仕方が分からない。肝心なときにそれじゃ、アートやクィーカにも危険が」


 「ガリアってのは、その銘がその力を素直に表す。みんな好き勝手に銘づけているようだけど、自然にそうつけているんだ。俺だって、防御だけだったら完璧の自信はある。そして虹色の防壁が出る銀の手甲だから、完防彩白銀手甲かんぼうさいはくぎんてっこうさ。そのまんまだよ。あんたの黒い剣は、銘がその力を既に表している。あんた、雷が出るときに共鳴するのか? 共鳴すると雷が出るのか? どっちなんだ?」


 「ええっ!?」

 カンナはアートが何を云ったのか、よく意味が分からなかった。

 「じゅ、順番の問題?」

 「違うのか?」

 そう、アートは笑った。

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