第43話 カンナ狂乱

 その途中で、ヤームイはガリアを消した。


 戻ってきて、三頭めの駆逐竜に驚き、思わず素手で構えた。が、驚いた顔のまま、ガリアは出さなかった。それが幸いし、駆逐竜はふいとヤームイのほうを向いたが、すぐに無視してアートたちへ身構えた。アートはそれを油断なく観察していた。


 「こいつは、思わぬ収穫だ。駆逐竜の対処方法が分かったぞ。勇気がいるがな……」


 つまり、できるだけガリアを出さないで戦う。そんな事ができるのかどうか、これから実践しなくてはならない。


 「俺が囮になる。カンナとヤームイは、隙をついて、攻撃の瞬間だけガリアを出して戦ってくれ」


 無理だろう、それは……! カンナは顔をしかめた。


 だが、ヤームイは雑務用の短剣を構え、果敢にも走り込んで駆逐竜の背後に迫った。しかし実際の鋼の武器では、竜の鱗にはまるで通用しない。吠えられ、あわてて下がった。


 「おおりゃあ!」


 その隙に、アートがガリア「完防彩銀手甲かんぼうさいぎんてっこう」の力を最大限にし、虹色の障壁を広げて駆逐竜へ掴みかかった。凄まじい力で押さえつけられ、竜が息を吐きながら地面へ押しつけられる。


 「いまだ!」

 アートが叫ぶも、ヤームイはまだガリアを出さない。愕然とし、竜をみつめている。

 「カンナ!」

 「は、はいィ!」


 またも修羅場! カンナは涙目で黒剣を出し、その硬質な鱗に覆われた駆逐竜の背中へ渾身の力で突きたてた。ガリアの力が鱗を裂き、ずぶり、と剣が竜の肉体に埋まる。駆逐竜が断末魔の声を発し、暴れに暴れたが、なんとアートのガリアはそれを完璧に押さえ込んだ。


 「もっとトドメだ!」


 カンナは雷撃の力を念じた。が、パシッ、パシッと微弱な電流が剣を通じてカンナに感じられただけだった。強靱な竜の心臓を止めるには、まるで話にならない。


 「……う、う、う……」

 再び、カンナの想いだけが空回りする。竜を倒すという想いだけが。

 「うあああああ、なんで、なんでうまくいかないいいィんだああああ!!」


 アートもクィーカもびっくりして、カンナの激変をみつめた。カンナは血走った眼をむいて、身動きできない竜の肉体へ、黒剣を何度も何度も突きたてた。何度も!


 「竜は倒す!! 全部倒す!! 竜は……全部殺す!! 殺してやる!! 殺すんだああ!!」


 完全に駆逐竜が動かなくなると、カンナは息をつき、黒剣を抜いた。竜の血が滴る。カンナはそれを振り上げ、別人めいて獲物を求めて歩きだした。


 「……おいっ、カンナ、どこに行く!? おい! 一人で行くな! ……クィーカ!」


 クィーカが音の玉を出した。この玉の発する声は、単なる声色や腹話術ではない。ガリアの力で、聴く相手が必ず耳を貸す。


 「カンナ、落ち着け、戻ってこい!!」


 カンナがびくりと身体を震わせた。誰の声で聴こえたのだろう。頭を抱えて立ち止まり、息をついてうずくまった。すると、残る二頭が森から戻ってきた。一目散にカンナのガリアめがけて走る。アートも走った。

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