第33話 木偶人形の中身

 別室へ連れて行かれたクウヤは一人その部屋に取り残された。その部屋は小規模な闘技場コロシウムになっており、あちらこちらに焦げ跡が見えた。何をやっていたかわからない部屋にしばらく放置された彼は不安にかられる。他の子供たちが酷い扱いをされているのに自分だけが優遇されるとは彼には思えなかったからである。何をされるか判らない不安にさいなまれているときに不意に部屋の扉が開いた。


「早速始めようか」


 部屋に入るなり研究員は唐突にそう言って、クウヤのすぐそばへ歩み寄ってきた。不意を突かれた彼は研究員が何を言っているのか理解できず、呆然と立ち尽くすだけだった。


「……えっ? 何を始めるの?」

「鈍い奴だな…。ま、いい。お前、魔法を使ったことがあるか?」


 突然そう言われたクウヤは戸惑いながらも首肯する。研究員は頷きながら更に言葉を続ける。


「とりあえず、説明してやるから良く聞け。これからお前は魔法で戦ってもらう。魔法の使い方は基本は解っているだろうが基本的事項について確認するつもりで今から話すことを聞け。そのあと標的用の動く木偶人形を用意するからそれを攻撃しろ。やることはそれだけだ。判ったな?」


 研究員は言いたいことを一方的に言ってクウヤの反応はお構いなしであった。クウヤはしかたなく研究員の指示に従う。研究員はぶっきらぼうに魔法の発動の仕方や制御の仕方を一方的にまくし立てる。うんざり顔でクウヤはその話を聞いていた。その研究員の説明する魔法の制御の方法や発動の手順はクウヤが聞いていたものとは異なり、肝心なところが抜けていたり曖昧だったりしていた。そんな方法で魔法を発動させようとしてもまともに発動するかどうか怪しかった。それどころかまかり間違えば、暴発する恐れがあった。


(……よくこの説明で、魔法を使わせるな。暴発しても知らないぞ…)

「……ということだ。大体わかったな。……おい、聞いているのか!」

「はい、聞いてます、聞いてます」

「なら、やってみろ。炎の魔法だ」


 クウヤはその研究員の指示に従い、魔法を発動させる。ただ、研究員にはわからないように出来る限り、弱く発動するよう制御した。すると、ろうそくの先で燃えているような火が現れ、消えた。


「なんだそれは!」

「……なんだと言われても困るけど、炎の魔法。」

「そんな種火みたいな火が使えるか! もう一回やり直しっ!」


 そう言われて面倒くさくなったクウヤは適当に魔法を発動させた。


 突然、目の前に炎の壁が現れた。


 一瞬ではあるが、クウヤと研究員の目の前が炎で遮られた。そのときクウヤの前には天井を焦がすほど大きな火柱が現れ消えた。これには研究員も腰を抜かし、腰砕けになって逃げ出そうと這いつくばう。魔法を発動させた当の本人はチョットやり過ぎたと頭を掻いている。


「……おまえは俺を殺す気かぁっ!!」

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