第22話 悩めるソティスとクウヤの決意

 クウヤとソティスは戦闘訓練に明け暮れていた。クウヤの剣が上段から彼女に斬りつけるが空を切る。そのスキをついてソティスが大きく振りかぶり、彼に大上段から斬りかかる。彼は必死に素早く後ろへ飛び、彼女の剣をかわす。かわすと同時に彼は魔法を発動し、ソティスに向けて炎を放つ。彼女は氷の防壁を作り、炎を防ぐ。二人の戦闘訓練は激しく、とても子供と女性の戦闘訓練とは思えないほどである。


 何度か剣と魔法の鍔迫り合いの後、二人は動きを止める。二人は構えたまま動かない。


「……クウヤ様、少し休憩しませんか?」

「………………ハァ……ハァ…そうだね」


 肩で息するクウヤに対し、ソティスは涼しい顔である。


(なんで、ソティスは……あんなに平静なんだ?)


 クウヤはソティスの能力に驚嘆し、改めて彼女と自分の間に大きな差があることを思い知らされる。


「ところで、調査のほうはどうなっているの?」


クウヤは気になって仕方が無い様子でソティスに聞く。ここ数日、訓練に明け暮れていたが調査の話は会話の中にでてこず、彼にしてみると些細な情報でも欲しいと思っていた。


「何かあれば、子爵様からお声がかかるでしょう。心配なさらなくとも大丈夫ですよ」


さり気なく彼女は彼の意図をおもんばかったうえで、やんわりとはぐらかす。ただ、そろそろ彼が我慢しきれなくなってきたことを彼女は感じていた。とはいうものの、彼女に課せられた役目からどうにかして、彼を押しとどめなければと彼女は決意していた。彼女の目に冷酷な光が宿り、凍てついた氷の微笑を浮かべる。


「さぁ…。再開しましょうか」


 クウヤは背筋に寒いものを感じた。


――――☆――――☆――――


「…………いてて。ソティスやり過ぎだよ……。死ぬかと思った」


 クウヤは自室で着替えながらぼやく。再開した訓練は苛烈を極め、彼は地獄の入口を覗いた。いやほとんど地獄へ脚を踏み入れいていたと言っても過言ではない。ソティスは彼のことを生かさず殺さず、猫が獲物をいたぶるように執拗に彼を弄ぶように攻撃を加えた。彼はその攻撃を受け流し、回避しやっとのことでしのいだ。そのため、彼は極度の筋肉痛に全身襲われることになった。


「……うぅ。痛い。動きたくないんだけどなぁ。…………しかたがない」


 そうぼやくと、痛む体を抱えるように、食堂へ移動し始める。自室を出たクウヤは敗残兵のようにボロボロになった体をかばうようにゆっくりゆっくり、薄暗い廊下を歩いて行く。暫く行くと執務室の前に差し掛かった。その時微かに中の話し声を聞いた。


「……クウヤの様子はどうだ?」

「大丈夫です。だいぶ、しぼっておきましたので………」


 執務室の中で、男と女の話しあう声が聞こえる。おそらく子爵とソティスだろう。


(何の話だろう?)」


クウヤは思わず聞き耳をたて、執務室の様子をうかがう。


「……ものになるか?」

「……アレだけ……大丈夫です。数週間のうちには」

「よし。引き続き頼む。……」


(父上とソティスか。訓練のことかな? もしかして数週間したら調査にでれるのかな?やった!)


 クウヤは内心、小躍りしたくなるような心地になりそのまま食堂へ向かっていった。


「……いったか?」

「はい、うまく誤解されたようです」


 執務室で子爵とソティスはクウヤの気配をうかがいなら話をしていた。二人ともクウヤの気配に気づき当たり障りのない話をして彼をやり過ごした。


「すまんな、損な役目を押し付けて。こうでもしないとあいつは何をしでかすかわからん」

「了解しています。当分は屋敷内を歩くのがやっとでしょうから、思い切った行動を取られることはないと思いますので、ご安心ください」


 その後子爵とソティスは事件の調査と今までに判明したことについて話し合い、破壊工作員のアジトをいかに闇から闇へ葬り去るか話し合った。


――――☆――――☆――――


 クウヤとソティスの訓練は一週間ほど経った。二人の訓練は高度化し、他者が付け入るスキがないほど激しもので、入れ替わり立ち代り攻守が代わる。彼らの動きは傍から見ると見事な舞を見ているような気分にもなるほど無駄のないものであった。


(これだけできれば、もうそろそろ……)


 クウヤは自分の動きに自身を持ち、実戦でもうまくやれると思い始めていた。ただ、その彼の自信に反比例して、ソティスの評価は低いものであった。そのことが彼にとってもどかしく感じていた。


「……さて、今日のところはこのぐらいにしますか」


 ソティスが一言かけると、クウヤは構えを解く。


「まだ、攻撃に対する反応が遅いですよ。実戦ではその一瞬の遅れが命取りになりますのでもっと注意してください」

「……………ほーい」


 クウヤはあからさまに不満な態度で返事する。彼はそう返事すると、踵を返し自室へと向かう。ソティスはそんな彼の様子に複雑な心境になる。

 子爵の指示を実行しているとはいえ、やっていることは彼が実戦で生き残る術を伝えていることには間違いなかったからである。どちらにしても、クウヤに生き延びて欲しいという気持ちが皮肉なことに彼女を悩ませることになっていた。


(……ハァ……、複雑。クウヤ様に全部話せたらこんなにもどかしくないのに……)


 悩める彼女の気持ちはクウヤには未だ届いていなかった。


 自室へ向かうクウヤは何事か考えていた。


(こんだけ出来るなら、一人でも……。チョット探すぐらいなら大丈夫かなぁ……)


 クウヤはあまりにも焦らされるように待たされるので自分で勝手に調査へ出ようと考え始めていた。


(確かスラムの子だったよな。ならスラムへ行けば、何かわかるかな……?)


 クウヤは何事か決意して、自室へ向かっていった。

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