第45話 異世界娼館で勇者になる

「助かりました、勇者様方!」


 兵士たちが俺の周りを囲い、褒め称える。これこれ、こういうのが勇者として欲しかったわけだ。


「えっ!? ひ、人がこんなにいっぱい……」


 さっきまで気を失っていたうえ、気付いたときは目の前に魔物の群れだったせいで、とくしまは周囲の人の多さに気付いていなかったようだ。

 そして自分が唱えた酷い呪文もうそう、つまり性癖をたくさんの人に聞かれたことで再び気を失ってしまった。もう世間にカミングアウトしてしまえば楽になるんじゃないか? なにをそんなに恥ずかしがっているんだか。


「勇者殿、先ほどの魔法はなん……うぼぁっ」


 空から様子を見ていたちとえりが降りてきた途端、人が俺の近くまで寄ってきてちとえりは人波に飲まれた。

 そしてみんなして俺を担ぎ上げた。おお、なんかいい気分。


 ああ、とくしまが奪われた。そしてどんどん離れていく。

 そうじゃない。俺が離されているんだ。まるで……じゃなくて完全にどこかへ運ばれている。

 勇者誘拐? まさかそんなことはしないだろう。だとしたらなんだ?

 ひょっとして歓迎的な扱いで、ハーレム系な展開もありえるかも。


 よくわからぬまま、俺はどこぞへ連れ去られてしまった。




「よくいらっしゃった、勇者殿」

『いらっしゃい、勇者殿!』


 ……ちっ。


 俺が舌打ちするくらい不機嫌なのは、正面にいる領主らしき小デブのせいではない。

 周囲にいる十数人のきわどい下着を付けたマッチョどものせいだ。

 全員が揃って同じ言葉を発し、更にいちいち同じポーズをつける。とても鬱陶しい。


「儂の町を救っていただき、なんと感謝してよいものか。もてなしの準備は整っておるから、自由にしてもらいたい」

『なんなりと!』


 ああもう鬱陶しい。俺は男の体を眺める趣味なんてない。これはもてなしじゃない、拷問だ。


「あのさ、女の人はいないのか?」

「女? そのようなものは必要ありませぬ。必要ありませぬぞ女というものは」


 やばい、こいつファッキンゲイだ。このままいたら俺まで戴かれてしまいかねない。


「いやいやいや! 俺そっちのケはないから! 普通に女性が好きだから!」

「それは男のよさを知らないからそう思っているんですぞ。男はいい。特にホモは裏切らないし」


 仮にもし男のほうが色々と良かったとする。だけど俺はそんなもの知りたくない。何故なら女体が好きだからだ。

 これは完全に好みの問題だ。引き締まった肉体が好きで女体に興味がない人もいるだろう。ただ俺はそうじゃないってだけの話だ。


「あ、そういうのいいんで。んじゃ俺はこの辺で」

「くっ……。い、いやお待ちを勇者殿! 実はちゃんと女も用意しておりますぞ! 勇者殿が好みそうな!」

「MAJIDE!?」


 なんだよちゃんといんじゃん。しかも領主が用意しているんだから完全に合法。幸いにもごくまろたちはまだ動けず、旅に出るまでは数日かかるだろう。

 つまりその間はハーレム三昧。励みまくれることこの上なしの状況だ。


「よし早速そこへ案内してくれ」

「わかっておりますとも。それで、できればこの町を懇意に……」

「みなまで言うな。こんな素晴らしい町を気にかけないわけにはいかないだろ」

「ぐふふ、さすが勇者殿」


 英雄色好むって言うからな。本当はあまり好きじゃないけど勇者なんてやっている以上、色を好まなければならない。あー勇者って大変だなー。

 よっし言い訳完了。さあ行くぞステキなサムシングを求めて。




「────で、なにこれ?」

「なにとは?」

「こんなん違うわボケ!」


 目の前に広がる惨状は、俺を怒らせるのに充分な光景だった。


 そこにいるのはガキ、ガキ、ガキ。一番上でもせいぜい15歳くらいだろうか。とにかくガキだらけだ。

 ……最悪だ。これじゃあ今までとどう違うんだ。


「あのな、こんなガキどもに俺が心を奪われるはずないだろ。もっとお姉様的な女性をよこせよ!」

「お姉様的というのは?」

「歳で言えば20過ぎから40くらいまでだよ! 一番女性が美しい時期だ!」


 俺の魂の叫びを聞いても、この領主は渋い顔をするだけだ。ゲイには理解できないらしい。


「勇者殿、こういってはなんだが、そんな適齢期を過ぎて美しい独身女性がいるはずないではありませぬか。それとも人妻がよろしいと?」

「ぐぬっ」


 この国でも女性の結婚は15歳前後なんだろう。すると綺麗な女性なんてすぐ相手が見つかり、とっとと結婚しているはずだ。

 俺は人妻も大好きだが、愛する夫から無理やり引き剥がされ、悲しみの中で相手させるというのは嫌いだ。お姉様には明るく楽しい性生活を送ってもらいたい。

 例え俺がおもちゃのように扱われたとしても、それはそれで満足だ。

 この世界にキャリアウーマンはいないようだ。やはり日本っていいよな。


 いやいや、まだ希望は捨てられないぞ。この町にも娼館があることくらい確認済みだ。そこになら俺の求めるようなお姉様がいてもおかしくない!


「ときに領主よ。この町でおすすめの娼館というのはどこだ?」

「娼館のほうがいいと申すか? 生憎儂は少年館しか知らぬが」

「いやいい。自分で探すから」


 店を自分で探すのも冒険であり、踏み込むには勇気がいる。そう、これこそ勇者の所業だ。

 俺は領主から気持ちばかりの金を受け取り、屋敷を出て色町へ繰り出す。




「待ってたね勇者殿」

「ちっ、ちとえり……っ」


 娼館が立ち並ぶ街の一角へ向かうと、物陰からちとえりが現れた。何故俺がここへ来るとわかった。こいつエスパーか?


「勇者殿が性欲を抑えられずここへ来ることくらいすぐわかっていたね」

「ばばば馬鹿なことを言うなちとえり。俺は町にまだ魔物が侵入しているんじゃないかと見回りをだな……」

「言い訳はいいね。さあとっとと店を決めるね」


 えっ、いいの?

 なんて騙されないぞ。こいつ同伴して俺のあられもないところを眺めて喜ぶつもりだ。絶対に嫌だ。


「悪いけど俺、持ち合わせがないんだ。だから────」

「領主からお金を受け取ってることくらいわかってるね」


 ぎくっ。


「な、なんでそんなことを!」

「ちなみにここの領主はホモじゃないね。全部ここ数日で私が勇者殿のために仕込んだドッキリね」

「がっ……」



 俺はこの世界で誰も信じられなくなってしまった。

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