第40話 大巨人族の町

 岸に打ち上げられた俺は、なんとか壊れた船から這い出しごくまろたちを救出することにした。

 ぬう、お子様な体だから軽いといえば軽いんだが、やっぱり上と比べると重い。うちの双子と同じくらいだろう。


 ごくまろととくしま、そしてシュシュを引っ張り出したわけだが、さすがに3人を町まで運ぶのは厳しい。だからといって気を失っている3人を置いて行くわけにもいかない。魔物がどこから出てくるかわからないからな。


「ちとえり、お前も手伝ってくれ」

「ふんっ! とくしまが自分でやればいいね!」


 まだ不貞腐れている。こいつ本当に年上か?


「そういつまでも怒ってるなよ大人げない」

「知らないね! これは勇者殿が悪いのね!」


 今日はやけにしつこい。いつも凄い勢いで怒るが、戻るのも早いのに。

 だけどそんなことしている場合じゃないだろ。早く安全を確保しないといけない。


「わかったわかった。謝るから機嫌直せよ」

「じゃあ早く謝るね!」


 うぬぅ、こういうのって謝るからって言っておけば謝らなくていい雰囲気になるはずなんだが、こいつには通用しないみたいだ。


「……悪かったよ」

「悪かったから何ね! それは謝罪じゃないね!」


 えっ、これ謝罪の言葉じゃないのか?

 てかよく考えれば確かに悪かったからなんだって話だよな。

 だけどそれを言い出したら、申し訳ありませんも申し訳ないからなんだってことになるし、ごめんなさいだって『免じる』に『なさい』だからかなり上から目線な気がする。


「なあ、日本語の正しい謝罪ってなんなんだ?」

「日本人が知らないことを私が知るわけないのね!」


 だよな。今更だけどこいつら日本人じゃないんだから、日本語は日本人未満と考えたほうがいい。


「でもこの世界って基本的に日本語使ってるよな」


 こいつやごくまろ、とくしま達はともかく、シュシュもそうだが、なによりもゆーなまで日本語だ。言語翻訳的な能力があるとは思えないし、なんなんだろう。


「それはヨスチネ? とか言う人とオダ・ノブのせいね。散々各国で日本語化政策をやって広まったね。日本語は文法が適当でも通じるし、漢字だと長い文字も短くできるから便利だったのね。それよりとっとと謝るね!」


 ヨスチネ? ヨス……ヨシ……義経!? ヤングビーフサークル!?

 いやビーフは牛肉か。そうじゃなくって、モンゴルに渡ってチンギス・ハーンやってたのかと思ってたら、こんなところで政策に関わるほどの地位を築いていたのか。


 そして日本語が公用語になっている理由がなんとなくわかった。義経の時代だと800年くらい昔か? それから信長に続き、それ以降も日本人がこの世界へやって来ては日本語を広げていったのだろう。


「時代って凄いよな」

「誤魔化さないでね!」


 俺はこの世界で日本人の悠久を感じた。歴史って凄いな。


「……ってそうじゃねえ。早いとこごくまろたちを運ばないと」

「ちっ。それ終わったらちゃんと謝罪するね」


 はいはい。日本人らしい謝罪を思い出しておくよ。

 さて問題はどうするかだ。意識があって多少動けるのならば2人くらい運ぶのは簡単だ。基本的に軽いからな。

 だけど気を失っている場合は1人が限界だ。確実に両手が塞がるからな。


「ゆんながしまちゃん運ぶーっ」


 ゆーなが何か言い出した。しまちゃんって……ああとくしまか。こいつら一応同じ歳だから普段仲いいもんな。気付くと一緒にあやとりとかしている。

 そもそも俺よりもでかい種族だからパワーもあるだろうし、任せられるだろう。


「じゃあ頼むわ。とすると、俺がシュシュを運ぶからちとえりがごくまろな」

「ちょっと待つね」


 俺の提案にちとえりが異を唱える。ゆーながとくしまを持ってくれるんだから、ごくまろとシュシュが残るだろ。だったらでかいシュシュは俺が運ぶべきじゃないか。


「何か問題でもあるのか?」

「勇者殿はごくまろが勇者殿を好きなのを知っているはずね。なのに恋敵のシュシュを運ばせるわけにはいかないね」

「お前はたまにごくまろの味方になるよな。親心ってやつか?」

「そんなのドロドロにもつれたほうが面白いからに決まってるね! シュシュのほうが押し強いから私がごくまろを押すことでバランスとるね!」


 お前がどんなに画策したところで、俺はどちらともバランスよく拒否するから大丈夫だ。歳が同じというだけでも対象外なのに、見た目ガキとかありえないだろ。

 だけどより重いシュシュを運んでくれるというのなら、俺としては別に文句言うつもりもない。俺は背中に荷物を背負い、ごくまろを抱き上げ町へ向かった。




 初めて見る大巨人族の町は、俺が思い描いていた異世界の町そのものだった。

 俺と同じくらいの身長、でかい人も小さい人も、色々と揃っている。

 しかも武器を持っているような荒くれ感もある。いい感じだ。


「ここなら冒険者ギルドみたいなのもありそうだな」

「前にいた勇者もそんなこと言ってたけどなんねそれは」


 つまり冒険者ギルドはないということだ。残念だが、俺も駆け足で進まないといけないから関わっていられないし丁度よかったかもしれない。


「依頼を受けて魔物を倒したりする連中のことだよ」

「そんなの兵士にやらせればいいね。なんのためにいると思ってるね」


 兵士は戦闘のプロなんだからそうなんだろうが、なんか夢がないな。日本で言うなら警察か自衛隊がなんとかする感じで、なにかの特殊装備を持った高校生とかが戦うようなことはない。


 でも一応俺は高校生で勇者やっているような立場だ。夢がないというわけでは決してない。むしろこれから先が本当の冒険だ。


「んでさ、そろそろ俺も武器が欲しいんだけど」

「勇者殿はどんな武器が扱えるね」


 色々扱えるぞ。刀だろうと槍だろうと。

 ただ日本刀はこの世界で手に入ると思えない。あれの製造は特殊過ぎるから、刀鍛冶じゃないと無理だ。信長じゃなくとも武士がここへ来ているだろうし、それなら持っていた刀が現存している可能性はある。だけどそれらが流通しているとは思えない。

 かなり低い可能性として刀鍛冶がこの世界へ来ているというのもあるが、玉鋼やらなんやらを手に入れられるのだろうか。そうなると何がいいかな。


「さすまたなんてあるかな」

「股に刺す……? ディ○ドね! 勇者殿はディ○ドを振り回して戦うのね!」

「字がちげえよ!」


 某自動車泥棒ゲームじゃあるまいし、そんなもので戦えるわけないだろ。どこに攻撃しろってんだ。


「まあそれはこいつら宿に連れて行ってからにするね」

「そうだな。さすがに町をぶらつけるような状態じゃない」


 なんてことを言いながら、俺の視線は周囲を探っていた。もちろんそれはお姉様を発見するためだ。そのためにここまで来たと言っても過言ではない。

 いざとなったら娼館やら売春宿を探すのもいい。この世界だったらバレてもせいぜいちとえり程度だ。親とかにバレることは100%ないから安心できる。


「ちとえり、後で金くれよ」

「渡すわけないね」

「なんでだよ。武器くらい買わせてくれよ!」

「私が付き合うね。勇者殿に渡したら絶対女買うに決まってるね!」


 こいつは何を言っているんだ。今までの俺を見ればわかるが、性的な行いは一切していない。


「ちとえり、俺が今までそういったところへ行ったことがあったか? 少しは信用しろよ」

「勇者殿がいつもゆんなちゃんの脚に欲情していたのは知っているね! それに勇者殿は年上の女から逆れーぷされたい願望があることもね!」

「そそそそんな願望あるわけねえだろ! 魔法はその、あれだ。より興奮するシチュとしてだな……」

「ようするに願望ね」


 チクショウ、全く信用されてねえ。


 こうなったら自力でなんとか稼いでやる。なんとしてもだ。

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