第28話 帰れない
「ちとえりぃ! どこだ! とっとと出てこい!」
俺は力の限り叫んだ。あの悪趣味なロリババアのことだ、どこかでこっそりと覗きつつ俺が慌てふためくのを楽しんでいるに違いない。
「勇者様、ちとえり様だって万能じゃないんですよ。今ごろ探しまわっていると思います。なんであんなことをしたんですか」
くっ、俺はちとえりを過大評価していたようだ。
正しくは勝手にあいつならなんとかできると期待を押し付けていただけに過ぎない。やばい、マジでピンチだ。
召喚された当初は帰れないという認識だったために覚悟を固めることができた。だけど実際には行き来自由だから完全に油断していた。何が悪いかといえば、完全に俺が悪い。
いやそうじゃない。くだらないちょっかいをかけてくるあいつにも責任はある。だけどかなり厄介な状況に置かれてしまっている。
「私の予想では、まだかなり上空を飛んでいるのではないでしょうか。機体はそれなりに大きいですし、飛んでいるなら更に見つけやすいでしょうし」
まさか墜落してるだなんて思っていないだろうな。
そしてまたやばいことに気が付いた。あいつは一度吹き飛んだとき、機体が減速したから追い着いたと言っていた。つまり浮航水を吐き出し落下加速をしていたこいつには引き離される一方だったということだ。
完全に見失ってるだろうな。
「ごくまろは転送する魔法使えないのか?」
「えっ、無理ですよ」
「無理というのは嘘つきの──」
「勇者様が私と子作りに励んでくださればできます」
「無理」
やばい、マジでピンチだ。早くちとえりを見つけないと帰れない。
「そもそもなんでごくまろはできないんだよ。『ごく』の名は伊達か?」
「なんでそんなことを言うんですか! 私が一番魔法を速く詠唱できるからです!」
おっとこれ以上は黙ろう。シュシュにごくを奪われそうになった件からごくまろはこの話に敏感だ。
「人には得手不得手があるから仕方ないか」
「なんか急にやさしくなってませんか?」
「俺はいつでもやさしいぞ。ほーらごくまろ、たかいたかーい」
「やめてください!」
ごくまろを持ち上げてやったら何故か怒られた。少しくらい喜んでもいいんだぞ。
なんて遊んでいる場合じゃない。空を見上げるが、恐らくちとえりは飛んでいないだろう。
あいつ小さいし、飛行機よりも高高度を飛んでいるだろうから見えないという可能性もあるのだが。
「あっ何か飛んでます!」
とくしまの声に俺は目を凝らした。うーむ、見えない。
「ごくまろっ」
「わかってます。フォーカス、ロングショット!」
望遠魔法らしきものを使い、とくしまの指す方向を見る。だが何も見えない。
「何もないぞ」
「そんなことありません! 何かが右や左へ高速で飛んでます!」
「そりゃ
全く、驚かせやがって。
だけどほんとどうしようか。もう少しで崖の下に着くのだが、この先どうすればいいのやら。
とにかく町を目指してみるか。なんにせよ補給や休息ができる場所が欲しい。
「そうでした勇者様、もうひとつ大変なことがあります」
「帰れるか帰れないか以外に大変なことなんてなさそうだが、なんだ?」
「町に行くためには川を渡らなくてはいけません」
おうふ、そうだった。
上から見た感じだと、川の向こうに町があった。そして橋らしきものは見当たらなかった。こちら側へ行く用なんてないのだろう。
船は……少し不安だが、機体がある。これでなんとかなるだろう。問題はどうやって渡るかだな。
木はいくらでもあるし、オールを作るか? だけどそういった細かいものを作る術がない。魔法を使って作るのは難しそうだ。
しかもオールを使った操作は簡単じゃない。慣れるまでくるくる回り続け、その間に相当流されてしまう。流れの速さは見えなかったが、幅はけっこうあったし。
「なんとかいい川の渡り方無いか?」
「そうですね……とくしまにやらせましょうか」
とくしまに?
ひょっとして機体に乗り込み、後ろへ向けて風系の魔法を放ってそれを推進力にするとか?
それはいけそうだ。小型のホバークラフトは後方にあるファンで進むんだし、問題ないはずだ。
「よし頼むぞとくしま。後ろへ向けて風を放つんだ」
「すみません勇者様、私は風系魔法が使えないんです」
なんだと!?
属性的なものなのか? 確かとくしまは……あれ? 水と火を使っていたのは知っているが、これって相性の悪い組み合わせじゃないのか?
「なんで使えないんだ?」
「だってその……風じゃ興奮できないじゃないですか」
うぐっ。それを言われてしまうと返答できない。
風で凌辱……駄目だ思いつかない。これはちとえり論の欠点じゃないか?
「えーっと、そのーだな……あっそうだ。外で
「あれは誰かに見られるかもという羞恥で興奮するんです。風は関係ありません」
そうだよなぁ。中学生男子だったら風でも勃つというのにな。
「じゃあ後ろに目掛けて水を放出するってのはどうだ? それでも推進力は得られるはずだ」
「川は水場なのでそれは使えないです」
どういうことだよ、意味がわからん。
ごくまろ先生の魔法講座によると、水場では今ある水が優先的に使われるため、魔方陣さんから水が発生するのではなく、水を操る系統になってしまうらしい。
水を操れるならそれで機体を押してみるのはどうかと聞いたが、とくしまの威力では機体が壊れる可能性があるそうだ。威力はあっても加減が難しいとのこと。
「とくしまも使えねぇな……あああすまん! ジョークだから泣くな! お前はよくやってくれている!」
大人ぶっていても11歳のガキンチョだ。今の言い方は我ながら酷かった。
「とくしまが一番役に立っているんだ。俺はとくしまがいないとなんもできなかった。だから機嫌直してくれ」
「勇者様、こういうときこそゆらぽかです」
「うっ」
あれだけはもうやりたくない。こいつらのおねしょで濡らされたズボンや股間を洗ってると鬱になりそうだからだ。
それでもやらないといけないな。俺が悪いんだから。
とくしまを持ち上げ、膝に乗せる。そして軽く抱きしめ左右へゆっくりと揺れる。
「とくしまはーいいこだー。とくしまはーかわいいー。とくしまはーすごいー」
サービスとして耳元でささやいてやる。すると蕩けた笑顔であっという間に寝ていた。
「そ、それいい! お願いします! 私にも!」
絶対やだよ。これは最終手段だ。そもそも俺はとくしまがかわいいと思ってないし。
「それよりごくまろ、とくしまのパンツ脱がせておけよ」
「寝ている間にいたずらですね!」
「んなことするかよ。どうせこいつ漏らすんだから、おむつでもさせとけよ」
今回は漏らすまえにとくしまを切り離すことに成功。あとは漏らすのを待てばいい。
「それよりも、もう崖が終わりますよ」
「ぬう、結局いい案浮かばずか。とりあえず川岸まで行くかな」
「そうですね」
ここまで来たのはいい。だけどどうやって川を渡ろう。
それよりどうやって帰ればいいんだ俺は……。
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