第27話 男と黒スト
森を抜けた先は崖だった。
とうとう大巨人族のテリトリーまで来たのかと思ったが、どうやら違いそうだ。
崖下の景色が見える。距離で言うと500メートルあるかないかといったところか。
それなりに高い崖ではあるが、前のような絶望感はない。ただの崖だ。
とはいえ落ちたら死ぬだろうな。気を付けないと。
だけど一応森は抜けたし、崖の下は川と草原。遠くにまた森があるけど迂回すればいいし、町らしきものもある。遠目で判断する限りは無事な気がする。
「ごくまろ、あの辺りに町があるんだけど、見えるか?」
「ちょっと待ってください。フォーカス、ロングショット!」
ごくまろの手元の魔方陣さんからまっすぐ先に、大きめの魔方陣さんが現れた。すると魔方陣さん越しに町の様子が見える。まるでレンズだな。
「ゆ、勇者様、大変です!」
「どうしたごくまろ!」
「情事です! ああっ、す、すっごい……」
「やめろバカ」
ごくまろの頭をひっぱたく。もちろんこいつらに合わせてなるべく力を入れないように。
「で、ですがあれでは見てくださいと言わんばかりの……」
「望遠で覗かれているなんて誰も思わねーよ! そもそもそんな道具が無いんだからな!」
全くロクなことをしないな。
「だけど勇者様……」
「だけどじゃねーよ。覗きは犯罪だ」
「それは相手が貴族の場合のみです。それに──」
「言い訳はきかねぇよ」
「あの女性、網タイツを履いた大巨人族でした」
「おうちょっとどけよく見せろ」
はっ、しまった!
ごくまろがニタニタと笑っている。その目はようこそ同類と言いたげだ。
「ち、ちげえから! 今のは軽いジョークだからな!」
「ええ、凄い情婦でした」
「マジで!?」
「……変態」
は? 誰が? 変態ですと?
「お前が、お前こそが変態だろ! 俺を一緒にすんじゃねえ!」
「勇者様はいつまでご自分を偽るつもりですか?」
偽る? この俺が? この理性の塊、モラルの番人と呼ばれたこの俺が変態だと言うのか?
もはや呆れてものが言えない。そもそも俺ほど普通な奴なんて滅多にいないんだから。
「あのなごくまろ。この際だから教えておいてやる。俺は全てにおいて普通なんだよ」
「つまり変態の中でも普通ということですよね?」
えっ、そうなってしまうのか!?
つまり俺は、ちょっと変態ともの凄い変態の中間に位置することになるのか?
待て、そうじゃない。人というのは誰しもが他人に言えない変態性を持っているものだ。つまり、ちょっと変態であるのが普通なわけだ。
だから俺に変態なところがあってもおかしくはない。いやむしろ変態なところがあるから普通だと言える。
「人は皆、変態性を隠し持っているものなんだ。だからそれは特殊というわけじゃないんだぞ」
「いいえ、勇者様のそれは一般のものよりも激しいです」
「ほう? 例えば?」
「黒ストに対する執着です」
俺は深く溜息をついた。
女子供にはわからんだろうな。黒スト様の素晴らしさが。
その神秘性には全ての男が跪き、足の甲にキスをし、弓のように美しい脛のラインを舐めさせてもらうことを望んでいる。
全ての男がそうであるというのならば、当然俺もそうだという話でしかない。勘違いされては困る。
「男はみんな黒スト様に逆らえないものさ」
「そんなことはありません。以前召喚して城のメイドを連れ去った勇者は縞ニーソこそ至高と言っていましたから」
「ロリコンと一般男性を一緒にするな。そいつが異常性癖だっただけだろ」
ロリコンという時点で普通と違うんだから比較対象に持ってこられても困るんだ。
「あの、楽しそうなお話のところお邪魔しますわ」
俺がごくまろに一般男性論を説いていたところにシュシュがやってきた。こんなところで止まっていないでさっさと行こう的なことだろう。
「ごくまろ、話はここまでみたいだな」
「ど、どうしてですか!? 私も混ぜてくださいまし!」
急かしているんじゃなくて一緒に話したかったのかよ。まあ移動しながらでも話はできるか。
「わかったわかった。いいか────」
「────つまり、黒ストを履けば勇者様が私を貪ってくださるのですわね?」
「話をちゃんと聞けよクソガキ。年上のお姉様だけだと言っているだろ」
俺たちはこの崖をどうにか降りられないかと道を探しながら崖沿いを歩いていた。
崖から下に降りる場所は見つかっていないが、崖自体が緩やかな斜面だったため、そこを下っていくことにした。
「それではいつまでも私の番が回りません! せめてチャンスを下さいまし!」
俺は懐が広い男で有名だ。だからチャンスは全ての女性へ等しく与えられるべきだと考えている。
だから当然シュシュにも手を差し伸べてやる。
「とりあえずそうだな……あと2~3年後に、できれば身長は150以上は欲しいな。あとは胸と尻もボリュームが欲しい」
「そんなの無理ですわ!」
「無理というのはうそつきの言葉です」
これはどこぞのブラック企業の人が社員を奴隷化させるために使った詭弁だが、使わせてもらう。
やる前から諦めてどうする。やってから判断しろ。
「では勇者様がロリコンになってください!」
「無理」
その人も嘘つきだからな。結局無理なものは無理なんだよ。
「ところで勇者様、大変なことに気が付いたのですが」
「なんだよごくまろ。まさかまた覗きか?」
「……そういうこと言うんですか。じゃあいいです」
ぷいと顔を背けた。一応ごくまろには真面目な面があるし、聞いておかないといけないかもしれない。
「ごめんごくまろ。謝るから教えてくれよ」
「どーしましょーかなー」
若干イラッとする言い方に、崖から落としてやりたくもなったが、今の俺は
溜息をひとつ漏らし、ごくまろを持ち上げた。お姫様だっこというやつだ。
安い女ごくまろは、これだけでニコニコしている。
「さてごくまろ、何が大変なんだ?」
「ああそうでした。勇者様、どうやって元の世界へ帰るんですか?」
えっ?
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