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  • 第四章  《ラブイズ(38)》 -行動-

第四章  《ラブイズ(38)》 -行動-

 ようやくマシンに入る日が決まった。キキョウとアイハと会ったあの日から丁度一週間目のことだった。


 二人に会ってから2〜3日は心の葛藤と共に不安定な精神になったが、精神安定剤の量をギリギリまで増やし、精神を保っていた。頭ではマシンに入ることしか考えていない。しかし心では恐怖していた。生きる死ぬが心の中で揺さぶりをかける。そんな時、私はさなぎになった。さなぎのように心と身体を閉じ、精神に荒れ狂う嵐が過ぎるのをじっと待った。鍛えた筋肉が減少することに歯噛みしたが、このような精神状態になるのはサイトウとのミーティングで想定済みだった。


 …一人だ…

 結局産まれるのも死ぬのも一人なんだ…


 誰も私のことなんか必要ない。誰も私なんかいくても困らない。私がいるからこの世の中は全て悪くなるんだ。だから私はこの世から離れよう。私はこの世から消え去ろう。死ぬのではなく、そもそも存在しないのだ。初めから私が居なければ誰も傷付かない。誰も悲しまない。私は必要ない人間だ。産まれる価値の無い人間だ。そう思い残りの日々をただじっと過ごした。

 胸の奥では小さな焦りと、止まらない小さな動悸と、ツキツキをした疼痛と、心臓の気持ち悪い苦しさが永遠に続くような錯覚をしたまま、毎日が過ぎていった。


 …もう…何も感じない…何も思わない…後はマシンに入るだけだ…


 その日、係りの者に車椅子で私は連れられて行った。手術室へ向かう途中、キキョウとアイハがやってきた。私は一瞥もせずにただ真っ直ぐを見詰めていた。アイハが何か叫んでいたが、私は何も感じなかった。


 …心とは…一体何なのだろうか…ただそんなことを考えて手術へ向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 手術前、サイトウが私に話し掛けてきた。


「よしラブイズ、始めようか。ひょっとしたらこれが君との最後の会話かも知れない。何か言いたいことはないかい?」


「…心とは…なんだ?」


「心……そうだな…思考、意識、感情が作るもの…とでも言おうか…なぜそれを考えるんだいラブイズ?」


「…キキョウが言ったんだ…心は…脳だけで感じるものではないと…」


「…ふぅむ…興味深い意見だね。君はどう思うんだい?」


「わから…ない…だから…ここに…いる…けれ…ども…思う…ところは…ある…胸が……感…情…い…たい………」


「ラブイズ、ラブイズ…よし…入ったな…麻酔の確認をしてくれ。これよりSFNS前尖頭術を始める!皆…宜しく頼む…!」



 …


 …キ…キョウ…

 アイ…ハ…

 


 ……………


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 …そして私は帰って来た。


 …様々な経験をした…到底一言では言い尽くせないような思いもした……ただ『家族がいる』それだけが有り難かった。私は一人ではなかった。この胸に宿るじんわり温かい気持ちは、誰かがいてくれるから感じることが出来る…それは分かる…ただ…今は記憶の混同が激しい…頭がハンマーで何度も殴られたようなどうしようもない程の頭痛と胃から突き上げられるような吐き気に襲われている…おそらく脳が情報処理能力を最大限に活用している為に起こる副作用だと思う…想定済みだ…時折、怒り、悲しみ、喜び、憂い、恐れ、驚き、慈しみ、情熱、冷静、妬み、苦しみ等、様々な感情が私を取り巻いたが、以前のように取り乱すことは無かった。どこか客観的に自分を見詰める私がそこにいた。その後、心と身体は平静を取り戻すことがわかるからだ。


 徐々に平静な時間が増えていき、…そして私は病院を脱け出した。

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