第3部




 そしてメインブリッジまで戻ってきた一行は、先程パンドラが触れた艦長席の前方下段に位置する液晶テーブルを囲み、司令官による宇宙怪獣の説明に耳を傾けた。

「では作戦会議を始めよう。敵宇宙怪獣は大きく分けて三種類いる。一番小型だが数も多いトルーパー級。大型艦並の規模を持ち多数のトルーパー級を排出するバンガード級。そして最も大規模でこの宇宙怪獣共の大元とも言えるのがこのマザー級だ」

「私が殲滅したのは?」

「恐らく大多数がトルーパー級。更にバンガード級が数体といったところか。単身でここまでの戦果を出しただけでも大したものだがね。ではそれぞれのクラスをもう少し詳しく説明していこう」

 司令官がディスプレイを操作すると、トルーパー級宇宙怪獣の詳細データを表示する。

 そこにはパンドラが倒したサギフエにも似た小魚型の物や、カブトガニに似た甲羅を持つ物が映し出されていた。

「これらがトルーパー級に分類される個体だ。コイツ等は一体一体はそこまで強くない。だが真価はそこではない。コイツ等が最もその力を発揮するのは物量戦だ。先も言ったが、この階級の個体は数が多い。いや多いなんてものではないな。多すぎるのだ。一度の戦いで現れるトルーパー級の数だけで、我々の戦力数を大きく越える程だからな」

「そんなにいるのか。よく今まで生き残ってこれたな」

「生き残ってると言っていいのかも怪しいものだよ。確かに今我々がこうしてここに立っていられるのは我が軍が誇る一騎当千の優秀な人材による賜物だがね。それでもこの地に住む全ての市民達を守りきる事は出来なかった。それどころかどんどん数を減らされる一方だよ」

「成程。一体単位でそこまでの脅威ではなくとも、それだけの物量差があれば、ただでさえ数で劣るこちらの戦力も押し潰されかねない、と」

「そうだ」

「それにしても、このトルーパー級とやらは、皆こうして前後に細長いフォルムなのか?」

「あぁ。恐らくいち早く敵陣、もしくは新天地深く進攻して支配力を高める為だろう。このトルーパー級は宇宙怪獣の中でも最も移動速度の速い階級でもあるからな」

「ホウ」

「次にバンガード級だが・・」

 司令官が再びディスプレイを操作すると、映し出されていた宇宙怪獣が切り替わる。

「このクラスが群れの主力だな。個体の個性が一番多いのもこのクラスだ。光線を発するものもいれば、甲殻類の様に身体を硬い装甲で覆った奴もいた。正直、我々の戦力ではこのクラス一体倒すのも一苦労だな」

「このクラスは細長くは無い様だな」

「ウム。どちららかというと、移動より戦闘に重きを置いたようだな。能力の幅が広すぎていつも後手に回ってしまう」

「能力と戦術の幅広さなら、引けを取るつもりはない」

「頼りにしているそ」

 そう言いながら、司令官はディスプレイに触れ、最後の宇宙怪獣をテーブル上に表示させた。

「最後にマザー級だが、これの最も特筆すべき所は自らの身体から多数のトルーパー級を生み出す事だ」

「それは厄介だな」

「そしてそのトルーパー級が長い時間をかけて成長し、バンガード級へと進化する」

「元を断つにはマザー級を倒すしかないという訳か」

「本作戦の最終目標はそこになるだろうな」

「その作戦の詳細は?」

「ウム。宙域図を出そう」

 司令官が再度ディスプレイに指を走らせると、テーブル上に惑星周辺の宙域図が展開される。

 そこには、惑星から現れる帝国艦隊と思われる戦力と、その数百倍の規模を誇る宇宙怪獣勢力を表す分布図が映し出されていた。

「先にも述べた通り、我々と奴等との戦力差は歴然だ。故にこの戦いの最も重要な部分は如何に速く敵との戦力差を埋めるかという事になる。そこで彼女だ。既に実績のあるパンドラに勢力の大半を占めるトルーパー級の誘導及び殲滅を頼みたい」

「バンガードでなくていいのか?」

「まぁ聞け。我々帝国艦隊は、攻め来るバンガード級及びその周辺戦力を正面から受け止める訳だが、そこへトルーパー級の殲滅を終えた君が奴等の後方から迫る事で、我々と挟み撃ちに持ち込みこれを撃破。最終的に残ったマザー級を残った総戦力で叩き潰すのだ」

「挟撃作戦か。了解した」

「作戦の実行までまだ少し時間がある。今のうちに町の様子でも見てくるといい」

「そうさせてもらおう」

 司令官の気遣いを快く受ける事にしたパンドラは、メインブリッジを後にし、来た道を戻って城を出る。

 城を出たパンドラは、一先ず自らの脚で町を見て回るために回転城壁を抜けると、長い直線状の坂の下に広がる町を一望する。

「・・これだけ広い町でも、人間共がいないとなると静かなものだな」

 眼下の町を一望しながら、パンドラはどこか柔らかい雰囲気でそう言った。

『主殿は人間がお嫌いか?』

「余り好きじゃないな。人間共が生み出した文化や技術は嫌いじゃないが」

『ではその人間が生み出した文化と技術の、一つの完成形を見に行こうではないか』

「・・そうだな」

『どうやらこのまま降りていくとあの巨大な建造物の方向へ向かっていく様だぞ?』

「デカイな・・かなりの規模の様だが、利用目的は何だ?」

 町へ降りたパンドラはその巨大な建造物の近くへと接近する。

「コレは・・・・・・同じ様なデザインが規則的に並んでいる? この一つ一つがそれぞれ別空間として仕切られていると考えるべきなのか?」

『中に入ってみてはどうだ?』

 金太郎の提案を受け、パンドラは巨大建造物の入り口らしき部分へと脚を進めた。

 そこはガラスで出来た扉で隔てられており、中に少し広めの空間が広がっている事が分かる。

「閉まっているようだが?」

『鍵もかかっているのか?』

「手動で開けられるかもしれないと? まぁやってみよう」

 そう判断したパンドラはガラスの扉の中央にある裂け目に手をかけると、それらを左右へ押し広げていき、人一人通れる幅を確保する事に成功した。

「入り口を確保した。これより中に入って建造物の利用用途を確認する」

 そう言って中に入り、手当たり次第に扉を開けていったパンドラは、ある事に気付く。

「コレは・・同じ様なレイアウトの部屋が続いている。しかもコレは施設というより、住居。この世界の人間共は、この住居を積み上げたような所に住んだりするのか?」

『フム・・恐らくコレの利点は《限られたスペースの有効活用》であろうな。如何に広いといえど、ここは船の上、無限にいくらでも住居を建てられるわけではない。そこでこのようなタイプの住居を設ける事で、多数の市民達を限られたスペースへ収め切る事が出来るという訳だ』

「成程。だが我々の物になると、これも無駄になってしまうのが少し残念だな」

『建物自体を残して内装だけ目的に合わせて改装するという手もあるぞ?』

「それはおいおい考えよう」

 巨大建造物を出たパンドラは、再び街中へと歩を進めた。

 その中で、パンドラは地面の中へ伸びる階段を発見する。

「コレは・・町の地下にも何かあるのか?」

『いずれ手に入れるならどこに通じるか、把握しておく必要があるな』

「そうだな」

 そう答えたパンドラが階段から地下へと潜ると、壁の上の方に色とりどりの線が重なった図面が掲示されており、その下には小さいディスプレイを擁した機械が数台並んでいる。

「何だコレは? 線の上に何かの名称が書かれている。何の名称だ?」

 それ以上は分からなかった為、パンドラは奥にあるゲートらしき場所へ歩を進めた。

 そこには箱状の機械が等間隔でズラリと並べられており、手前側の上部には何かをそこに置くよう案内書きがある。

 そして機械と機械の間は奥で板状の物で塞がれていた。

 それを乗り越えて更に先へ進むと、開けたスペースに辿り着き、幅数メートル程の溝が横たわる底には、何やらレールが二対敷かれている。

「ここは・・トロッコでも走るのか? その割にはあのゲートは人一人分の幅しかなかったな?」

『それに、奥にも別の乗り場らしき場所があったようだが、ここからは行けぬようだな』

「町の地下に敷かれた謎の路線か・・これも作戦の後で司令官に聞いてみるとしよう」

 そう言って一旦結論を保留にしたパンドラは、引き返して下ってきた階段を上った。

 だが、地上が見え始めたところで、パンドラはその脚を止める。

『どうした? 主よ』

「何か大量の人間共がこの町に入ってくる」

 すると、街の入り口、パンドラが司令官の案内で乗艦したのと同じ場所から、地上の町の住民と思われる人達が、続々と入り込んできているのが見えた。

『アレは・・・・・・』

「避難民の受け入れも始めたか。いつ宇宙怪獣の本隊が攻めてくるとも分からん状況だ。じきにここも人で埋まる」

 避難民達が過ぎ去っていくのを見送ると、パンドラは階段を上りきって地上に上がり、先程までとは違う道を通って、城方面へと向かう。



《Moon-Ark――第4部へ続く――》

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます