第7部



 再び開眼した【魔導人形の眼マギカドールアイ】によって新たに解放された【蝶・反・応バタフライリアクト】に覚醒したパンドラは、背後からの金太郎の一撃をギリギリで交わすと同時に、右手にフォースボールを生成して金太郎の顔面に直接叩き付けた。

 これ以上ない程見事にカウンター攻撃をくらった金太郎は、後方へ盛大に吹っ飛ぶと、これで三度も壁に叩き付けられる事になる。

 更にパンドラは追撃を加えるため、【蝶・効・果バタフライエフェクト】を使い、無数の黒い蝶となって空間から消失すると、壁に叩き付けられた金太郎の目の前に再出現し、今度は左手に生成した焔属性のフォースボールを突き付けた。

 しかし、流石は童話主人公というべきか、金太郎は雷属性魔法で自らを雷化するとこれを回避し、パンドラの背後に回り込む。

 そして右脚に稲妻を纏うと、これでパンドラの背後を突く形で蹴り込んだ。

 ところがこの動きすらも【蝶・反・応バタフライリアクト】で予知していたパンドラは、【蝶・効・果バタフライエフェクト】で再回避すると、更に金太郎の背後へ回り込み返し、焔属性の大型フォースボールを直撃させる。

「!!」

 床に倒れた金太郎へ、パンドラは更に追撃を加えようと、焔の髪の毛を操り金太郎の四肢と頭部を掴み上げた。

「~~~~~~~!」

 そのまま金太郎を燃やし尽くしにかかるパンドラだが、やはりこれまでの金属生命体達とは格が違うのか、熱した部分が赤くなるものの、そう簡単に解け落ちてはくれない。

「ホウ、流石は童話主人公。すぐには燃えんか。ン?」

 形勢逆転した事により不敵な笑みを浮かべるパンドラだったが、その直後に流れ込んできた光景に再び表情を険しくする。

「・・・・・・チッ」

 次の瞬間、金太郎は再度雷化すると、パンドラの拘束を脱出し、手脚に雷で装甲の様な物を作り上げた。

「まだ仕留め切れて無いのか?」

 金属生命体達を全て倒したらしい赤ずきんが、金太郎を見据えながらパンドラの下へ駆け付ける。

「あぁ。だが君のおかげでまた新しい力に覚醒した。奴の攻撃と捕捉に関してはどうにかなりそうだ」

「ほう、それで? 奴を仕留める手立てはあるのか?」

「その事だが、奴自身の動きを封じる方法が一つしか思いつかない」

「何だ?」

「奴は雷属性の魔法で自らを雷化する事が可能な様だが、この城内ではまだ奴の動きを封じるには広すぎる」

「だから何が言いたい?」

「こうするんだ」

「は?」

 理解の追いついていない赤ずきんをよそに、パンドラは変換した波導エネルギーを胸部中央へチャージすると、焔属性のフォースカノンを、金太郎にではなく合金城の天井に向けて撃ち放った。

 先程、上空からクリムゾンシューティングを放った時は全くダメージを受けた様子が見られなかった合金城だが、内部からパンドラにより放たれた焔属性のフォースカノンはその天井をオレンジ色に発光、変色させていく。

『天井が溶けてます! やりましたね!』

 パンドラの考えなど知る由も無いアリスは無邪気に活気付くが、察しのいい赤ずきんの反応は違った。

「・・・・・・こっちに来てから私なりに色々お前を助けたつもりだが、その返しがこれか?」

「まさか。ここで終わると思ってるなら大間違いだ」

 そう言うと、パンドラは赤ずきんの手を取り、天井が融落する中【蝶・効・果バタフライエフェクト】で合金城の外へと跳躍する。

「成程。天井を崩して生き埋めにするとは・・・・・・確かに奴の機動力を封じるにはそれしかないか」

「城自体は元からあったんだろうが、何か奴によって手が加えられたのかもしれん。クリムゾンシューティングが効かずに、私のフォースカノンが効いたのはそのせいだろう」

「だとするなら、奴が手を加えたというその城を崩して奴を生き埋めにしたところで、奴自身が大人しくしているとは思えないな」

「その通りだ。あまり悠長に構えている時間は無いぞ。奴は金属も操る」

 パンドラは再びフォースウィングを展開すると、一気に合金城上空まで飛翔し、再度波導エネルギーを胸部中央へ凝縮させた。

「このまま溶けた金属と共に、一度焼け死んでもらうッ!」

 まるで悪役が言うような台詞と同時に放たれた灼熱の光線は、ちょうどパンドラが金太郎を生き埋めにした辺りに直撃した・・・・・・筈だったのだが、

「!」

 融解した合金城の金属の上を突如稲妻が覆い、その直後、それらが集まると、全長四十メートル以上はあろう超巨大な金属生命体へと姿を変えたのである。

「・・・・・・デカい。よもや私の方が全力で拒否されようとはな」

『パンドラさん、下が!』

「これは・・・・・・周囲の地形が崩壊している!? 赤ずきんが危ない」

 赤ずきんに迫る危機を察知したパンドラは、急ぎ彼女をブローチの中へ帰還させた。

『フゥ、今度は地面に挟まれて圧死するのかと思ったぞ』

「大事無くて何よりだ」

 と、パンドラが赤ずきんの無事に胸をなでおろした次の瞬間――

『『「!?」』』

 パンドラの頭上を、轟音と共に稲妻を纏った一筋の光線が駆け抜け、街の一角を一瞬にして光の中へと飲み込んだ。

『街が!』

「奴め、街を破壊するつもりか!」

『か、怪物が移動してます!』

 アリスの言葉通り、超巨大金属生命体はゆっくりと、そして重々しい一歩を間違いなく街の方角へ進める。

「チッ、奴が街に辿りつく前に倒す!」

 パンドラはそう宣言すると、超巨大金属生命体の足を止めるため、右脚に波導エネルギーを急速チャージした。

 するとフレイムドレスの影響か、右脚に凝縮された波導エネルギーが紫色の焔を纏い始め、そこから更に焔を噴出させる。

 そこからパンドラは、展開していたフォースウィングを羽ばたかせて更に高度を上げると、キック体勢に入った。

「ムーンボルケーノキック!」

 足先に出現した満月と蝶の紋章を紫の焔が囲み、そのままパンドラは超巨大金属生命体の頭部へ急降下する。

 それに対抗し、迎撃する様に、超巨大金属生命体も再び目から二射目を撃ち放った。

「ハァァァァァァァァァァッ!」

 稲妻を纏った光線と劫火を纏った高エネルギーの飛び蹴りが空中でせめぎ合う。

「貴様の侵攻をォ・・・・・・全力でェっ、拒否するッッッ!」

 パンドラがそう言い放った直後、ムーンボルケーノキックの直撃を受けた超巨大金属生命体の頭部は、瞬時に液体化して弾ける様に蒸発し、中にいた金太郎をピンポイントで打ち抜いた。

 そして金太郎が雷とブロンドボブカットの横顔が描かれた紋章形態に姿を変えると、それと同時に超巨大金属生命体の首から下も紫色の焔に包まれ、火ダルマとなって燃え尽きたのである。

 自身の紋章を撃ち放ち、紋章形態の金太郎を封印したパンドラは、自身の中に新たな力が湧き上がってくるのを感じた。

 その時、左眼の【魔導人形の眼マギカドールアイ】が再び開眼し、光の線がパンドラの眼前に文字を描いていく。

 【Liberate解放Lightning Dressライトニング ドレス

「ホウ、新しいドレスチェンジまで教えてくれるとは」

『何にせよ、これで金太郎さんをを封印することが出来て良かったです』

「あぁ。だが街の様子が気になる。少し見に行こう」

 そう言ってパンドラがフォースウィングを羽ばたかせようとしたその時――

『『「!?」』』

 目の前の空間に【ホール】が出現し、久しぶりに目にしたその光景に、パンドラとアリスは表情を強張らせる。

 その穴から現れた、出来る事ならパンドラ達が今最も会いたくないその存在も、パンドラ達を見るや否や、一瞬で表情を険しくし、二人から距離を取った。

「・・・・・・何故貴様がここに。よもやッ!」

「今日はやけに来るのが遅かったなぁ・・・・・・ムーンフェイス」

 そう切り返すパンドラは、これ以上ない程悪人染みた表情を見せる。

「クッ・・・・・・」

「おかげでここの童話主人公の力はもう手に入れてしまったぞ?」

 パンドラの身体中を無数の稲妻が走り、やがて大きな落雷そのものがパンドラを飲み込んだ。

 そしてその中から現れたライトニングドレスのパンドラは、まさに雷神の如く変貌を遂げていたのである。

 両袖が無くなってノースリーブ化した両腕は雷化しており、フレイムドレスでワインレッドだったゴスロリ服は暗めの紫色に金の刺繍が所々に施されていた。

「貴様・・・・・・」

 ムーンフェイスは静かに怒りを震わせると、背部のメインブースターと全身のスラスターを最大出力で吹かす。

 だが、そこからムーンフェイスが動く事は無かった。

 ムーンフェイスがブースターとスラスターを最大出力で吹かし始めた直後に、パンドラは指一つ動かすことなく、雷化した両腕を背部で繋いでいた三対の三つ巴の雷溜まりから稲妻を放ち、ムーンフェイスのメインブースターを瞬時に撃ち抜く。

「なッ!?」

 主推進機関を破壊されたムーンフェイスは、センサーをも越える速度で繰り出された一瞬の一撃に、思わず体勢を崩した。

 そしてそのチャンスを逃す程、パンドラは間抜けではない。

 すかさず【蝶・効・果バタフライエフェクト】でムーンフェイスの背後に再出現すると、放電で彼の両脚を撃ち抜き、まず移動手段を奪う。

 そこから戦闘能力を無力化するため、武装系を破壊しようと考えたパンドラは、反撃のためアクティブアームを射出してきたムーンフェイスに対し、雷化した両手を伸ばしアクティブアームを掴み取ると、直接、高圧電流を内部に流し込み、電子爆発させた。

「グォアァッ!」

 更にパンドラは胸部の粒子ビーム砲を潰すべく、右手に雷属性のフォースボールを生成すると、それを雷の右腕を操って直接砲口へと叩き込む。

 高性能サイボーグのムーンフェイスに対し、雷のライトニングドレスという天敵とも言える力を手に入れ、一方的ともとれる程終始優勢な戦いを繰り広げていたパンドラだったが、ここでパンドラはミスを犯した。

 この世界に現れたムーンフェイスを見た当初から気になってはいたが、動く気配が無かったので、つい後回しにしてしまっていたのである。

 【蝶・反・応バタフライリアクト】でこのムーンフェイスの各所に追加装備されていた小型ユニットが動き出す所までは予知出来たが、そこで至近距離のまま放電で破壊するのではなく、【蝶・効・果バタフライエフェクト】で緊急回避する形で距離を取ってしまったため、対応に一歩遅れが生じてしまった。

「行け、マルチビット」

 次の瞬間、その【マルチビット】と呼ばれた小型ユニットは下部先端のクリスタルから細い光線を次々と放ってきたのである。

「!? 高軌道型のドローン? だが・・・・・・」

 パンドラは【蝶・効・果バタフライエフェクト】でマルチビット群の第一波攻撃を回避すると、ムーンフェイスの正面に再出現した。

「今の私にはあまり効果が無いな。面白い武装だが、今日の君はやはりここへ来るのが遅すぎた」

 続けてマルチビット群による第二波攻撃がパンドラを襲うが、【蝶・反・応バタフライリアクト】により、どこからどの角度でどのタイミングで攻撃が来るのか全て予知出来るパンドラは、これを動けないムーンフェイスの目の前で悠々と見せ付けるように回避していく。

「バカな・・・・・・何故だ、何故当たらん!」

 パンドラが覚醒した特殊能力の事など知る由も無いムーンフェイスは、マルチビットでパンドラを包囲しながら、死角という死角を突くものの、まるでかすりもしない状況に戸惑いを隠せないでいた。

「さて、そろそろ避けてばかりも終わりにするか」

 パンドラはそう言うと、両手に雷属性のフォースボールを作り出し、予知した位置にマルチビットが止まった直後にそれを投げつける。

 だが、それに対しマルチビットは中央部のクリスタルをこちらに向けると、そこからバリアのような物を展開し、これを防いだのだった。

「! これは、フォースバリアを再現したのか!?」

 自分の能力を模倣されるとは夢にも思わなかったパンドラは、少し表情を険しくしながらも、マルチビット群の反撃を回避しつつ胸部中央に波導エネルギーをチャージする。

「ならばこれはどうだッ!」

 より規模の大きな攻撃をと、パンドラは雷属性のフォースカノンを放ち、マルチビット群を巨大な電流の中に飲み込んだ。

 だが全部で十機確認出来た内、最初の三~四機は目論見どおり破壊出来たものの、残りのマルチビット群は複数でフォーメーションを組むと、それらを結ぶようにフォースカノン以上の巨大なシールドを展開してみせたのである。

「チッ」

 パンドラは巨大シールドを睨み付けると、【蝶・効・果バタフライエフェクト】で巨大シールドを展開するマルチビットの反対側へと再出現し、両腕と同じく雷化していた髪の毛を操って三機同時に破壊した。

 それでも間髪入れずに残りの四機は光線を放つでもなく、シールドを展開するでもなく、下部先端のクリスタルをこちらに向けて畳み掛けるように刺突攻撃を繰り出してくる。

 だが、【蝶・反・応バタフライリアクト】によってその攻撃軌道すら予知していたパンドラは、三つ巴模様からの放電と髪の毛を駆使し、ほぼカウンター同然のタイミングで残る全てのマルチビットを撃墜してみせた。

「待たせたな。今鉄屑に変えて・・・・・・ン?」

 そこまで言いかけて、パンドラはムーンフェイスに生じていた異変に気が付く。

「これは・・・・・・」

 ムーンフェイスは一見、マルチビットを全て撃墜され、意気消沈した様に見えたが、どうも動きが無さ過ぎるというか、動作音すらない。

「まさか・・・・・・ッ」

 パンドラはムーンフェイスの頭部に足をかけると、そのまま前に蹴り出す。

 するとムーンフェイスは全く抵抗する様子も無く、ガシャンと音を立てて横向きに倒れ込んだ。

「チッ、システムエスケープしやがった!」

『しす‥てむ? えす・・・・けーぷ?』

『撃破される危険が生じた際に、内部の重要な部分だけ身体から離脱出来るようにしてあったという事か? してやられたな』

「オーーーーーイ!」

 遠くから呼びかけてくる声に三人が視線を向けると、アリババを始めとするレジスタンスの面々が駆けつけてくるのが確認出来る。

「何だ、増援か? それにしては来るのが遅いような気もするが?」

「何を言う。一人で勝手に行ったのはそっちだぞ。それより・・・・・・」

 アリババは崩壊した合金城と、その周囲の遺跡の残骸に目を向けた。

「お前、本当に一人で金属生命体共と皇帝陛下を倒したのか?」

「一人ではない。二人の仲間と共に駆逐した」

「そうか。まぁ何にせよ助かった。俺達ではどうにもならなかったからな」

「我々も苦戦はしたが、結果的に目的は果たせた。もうここが鎧武者共に襲われる心配もないだろう」

「礼を言うぞ。だがその…お前に一つ言い忘れた事があってな」

 アリババは合金城の方に視線を向けながら、バツが悪そうに口を開く。

「何だ?」

「実はだな・・・・・・。鎧武者の奴等が攻め込んでくるまで皇帝の側近だった大臣達が、城の地下に幽閉されてたんだ」

「何だと?」



《金太郎編――最終部に続く――》

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