第5部



「! ・・・・・・ここは?」

 そこには何も居なかった。

 これまでの様な無数の金属生命体はおろか、居るであろうと思われていたメタルジン本人の姿すら確認出来ないのである。

『どこに行ったんでしょう?』

「・・・・・・」

『パンドラさん?』

「妙だな・・・・・・これまでの遺跡に比べて全体的に煙たい。それに生態波導の反応も違和感がある」

『違和感ですか?』

「(はっきりとした生態波導が感じられない。だが完全に無反応の時とも感覚が違う。この煙たいのに関係があるのか?)」

 違和感の正体を探ろうと辺りを見渡したパンドラは、そこで空間の奥に銀色に光る物体が鎮座しているのを発見した。

「・・・・・・ランプ?」

 何故こんな所にランプが置かれているのかと不思議に感じたパンドラは、調べてみようとランプに近づく。ところが次の瞬間――

「ン?」

 遺跡内の煙たい空気が突然、意思を持ったかの様に動き出すと、パンドラの背後で煙が集結し、銀の光沢を放つ筋肉隆々の大男が、上半身のみの姿で現れた。

「ようこそ我が居城へ!」

「そこか」

 生態波導を感知したパンドラは即座に振り返り、フォースバリアを展開して大男の攻撃を防ぐ。

 だが、焔の髪で反撃に出ようとしたパンドラの目の前で、大男は再び煙となって姿を消してしまった。

「ハハハハハハハハッ!」

「! ・・・・・・今のがメタルジンか」

『どうしましょう? 煙相手では捕えようがないです』

「いや、そうでもなさそうだ」

 設置されたランプに何かあるのではと考えたパンドラは、再度ランプに対して攻撃を加えようとする。

 だが突如ランプの前に現れた銀色の巨大な右拳に行く手を阻まれ、まるでロケットパンチのように迫るその攻撃に、パンドラは【蝶・効・果バタフライエフェクト】で回避し、攻撃を中断せざるをえなかった。

「チッ!」

『でもこれでランプに何か突破口があるのは確かですね!』

「そのようだな。だが大人しくランプの元へは行かせてくれないらしい。ならば・・・・・・」

 そう言ってパンドラは、アリスをクラヴィティハンマー形態で起動する。

 そして左右と頂部の鎚から重力球を作り出し、その直後、空間内に漂っていた煙を吸い込み始めた。

「向こうからこっちに来てもらう!」

『これならいけますね!』

 重力球で煙ごとランプを吸い込み破壊するというパンドラの奇策に、アリスも勝利を確信する。しかし、

「ん? これは・・・・・・」

『アレッ!?』

 空間内を漂っていた煙の大半は吸い尽くす事が出来た。だが、肝心のランプが置かれた台座から一ミリたりとも動いていなかったのである。

「固定されてたのか。小癪な事を!」

 ならばと、パンドラはクラヴィティハンマーからランプへ向けて重力波導を放った。ところが、

「クラヴィティインパク・・・・・・ヌォアッ!?」

 その直前、構えたクラヴィティハンマーが下から何かに突き上げられる様に跳ね上げられ、放った重力波導はランプにではなく、空間の天井部に重力球を生成し、大穴を開ける。

 更にクラヴィティハンマーが跳ね上げられた事により体勢を崩したパンドラへ、姿を現したメタルジンの魔の手が迫った。

「貰ったァァッ!」

「クッ!」

 しかし最早、今のパンドラにとって体勢を崩した事は問題にすらならず、メタルジンの追撃をパンドラは【蝶・効・果バタフライエフェクト】で難なくかわし、遺跡の上空に出現する。

 そしてクラヴィティハンマーをしまうと、両手から放出した波導エネルギーを凝縮し、焔属性の大型フォースボールを形成すると、それを振り上げ、遺跡の頂部へと投げ落とした。

 まるで小さな太陽の様な攻撃をくらった遺跡は、飴細工の如く溶け落ち、先程までパンドラがいた空間ごと溶かし潰す。

「さて、溶けた天井毎ランプとメタルジンも潰されてるといいが・・・・・・」

 不敵な笑みを浮かべながら、パンドラは眼下の遺跡を見下ろした。

 するとそこから、パンドラの期待を裏切る形で、溶け落ちた天井の金属をその身に浴び、新たな姿となったメタルジンがその姿を現す。

「だろうな。君達のその能力はもう二回は見た」

 それを分かっていたかの様に、パンドラは言葉を続けた。

「だがそれでは身体が肥大化するだけだ。他の奴等ならともかく、煙になれる貴様に意味があるとは思えんな」

 そう断言するパンドラに対し、強化されたメタルジンは、溶解した遺跡の上空で煙となって先程までと同じ様に姿を消した。チカチカと光を反射する煙である点を除いて。

 そこから、大して変化していないと判断したパンドラを煙のまま取り囲むと、まるでリンチするかの様に四方八方から姿を現す事無くパンドラを攻撃したのである。

「!? ぐっ!」

 不意を突かれ、【蝶・効・果バタフライエフェクト】を発動する暇も無く煙からの攻撃をくらい続けるパンドラは、これを逃れるため、フォースウィングを羽ばたかせると、高度を上げて脱出を試みた。

 だが、煙のメタルジンはこれを阻止すると、パンドラに更なる追撃を加える。

「ぐぅぅっ! ・・・・・・このっ」

 これに対し、パンドラは焔の髪を操ると、自身を囲い攻撃する煙のメタルジンを全方位同時に燃焼させた。

「グォアァァァァッ!」

 パンドラの焔の髪によって、その大半を燃やし尽くされてしまったメタルジンは、すぐさま失った部分の補充に取り掛かる。

「!」

 ある程度振り払えた煙に異変を感じたパンドラは、その煙が細長く伸びて遺跡とつながっている事に気付いた。

「補充して再生するつもりか!」

 メタルジンの再生を阻止するべく、パンドラは遺跡を完全に破壊しようと急降下する。だが、

「なっ!」

 体の大半を燃やし尽くされながらも、メタルジンは尚もパンドラの行く手を遮り続ける。

「コイツ!」

 パンドラは無尽蔵の魔力から変換した波導エネルギーを胸部中央に凝縮させた。

 その間にメタルジンは遺跡へと近づき、更に回復の速度を速める。

「させるかぁッ!」

 チャージが完了すると、パンドラは遺跡に狙いを定めてフォースカノンを放った。

 しかし、放たれた山吹色の粒子ビームが遺跡に到達する事は無く、ビームは見えない何かに阻まれたかの様にその直前で霧散したのである。

「何!?」

 予想していなかった現象に、パンドラはすぐさま焔属性の大型フォースボールを生成し、追撃を放った。だが、

「!?」

 その遺跡を溶かし潰した程の大型フォースボールでさえも、メタルジンの煙を燃やし尽くす事は適わなかったのである。

「何だアレは!」

『パンドラさんの波導魔法が効かない!?』

「だが、焔の髪は効いていた・・・・・・波導魔法だけが無力化されるのか?」

『そうかもしれません。だどしたら』

「現状で最も適した攻撃手段は・・・・・・赤ずきん!」

 パンドラは胸元のブローチに手をかざすと、そこから赤ずきんを魔宝具形態で起動した。

『お前にこの【フレイムバスターカノン】が扱えるか、お手並み拝見といこう』

 現れた二丁の銃火器は、カノンの名に違わず、身の丈程もある大きさを誇っており、砲塔というより大型ライフルの様なその紅色の巨体の先には、銀色の砲口がその存在を主張している。

 その赤ずきんの煽りに応える様に、パンドラはフレイムバスターカノンの狙いを遺跡とメタルジンに定め、引き金にかけた指に力を加えた。

 かつて赤ずきんの世界で見た、あの爆撃の様な一発一発が降り注ぎ、彼等を容赦なく燃やし尽くしていく。

「ゥグアアアアアア~~~ッ!」

 赤ずきんの魔宝具形態からの連続攻撃に、最早範囲の広い煙状態でいる方が危険と判断したメタルジンは、再び姿を現すと、残った金属を操り弓矢を形成した。

 だが、メタルジンがその弓矢を構えようと上空を見上げた時には、既にフレイムバスターカノンによるチャージショットの発射体勢に入ったパンドラの姿があったのである。

「・・・・・・は?」

 そのチャージはさながら、太陽が細胞分裂でもしたかの様な光景を放っており、メタルジンが戦意を喪失するには十分であった。

『チャージ完了』

発射ファイア

「っっっっっっああああアアアアアアアアッ!」

 巨大な二つの業火球に沈む遺跡にメタルジンの悲鳴が響き渡る。



《金太郎編――第6部へ続く――》

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