第4部
一方、少し時間を遡ってパンドラの方はというと・・・・・・
「ハァァァァァッ!」
パンドラの放った大型フォースボールが、増援の鎧武者軍団の最前列に直撃し、まるでボウリングのピンの様に寄せ来る鎧武者達を吹き飛ばしていた。
だが更に襲い来る鎧武者軍団に、パンドラは吹き飛ばされた鎧武者が落としたと思われる刀を、着地して駆け出すと同時に、刺さっていた地面から左右一振りずつ引き抜き斬り付ける。
パンドラが刀を使用し攻撃するのはこれが初めてだったため、その(本来引く様に斬らなければならない等の)独特な特徴のせいで真っ二つにするまでには至らなかったが、それでも並み居る鎧武者達を完全に停止させる程の致命傷を叩き込む事は出来た。
そこからパンドラは左右の刀を前方の鎧武者目掛けて投げつけると、回転しながら空を舞った二振りの刀は、残る二機の鎧武者達の頭部へクリーンヒットしたのである。
加えてパンドラは新たに刀をそれぞれ手に取ると、そのまま一気にムーンフェイスへと迫った。
キイィンンッ! という硬い金属音と共に、ムーンフェイスの前腕部はそれを受け止める。
再び波導翼を展開し、ヒットアンドアウェイで何度も斬りかかるパンドラだが、ムーンフェイスは涼しい顔をしながら(そもそもサイボーグなので表情も何も無いのだが)それらを全て手刀で弾いてみせた。
「チッ、刃が立たないとはまさしくこの事か・・・・・・」
「私の身体がそんなナマクラ刀で斬れるとでも思っていたのか?」
「ホウ、ならばこれはどうだ?」
そう言うと、パンドラは持っていた刀の刃に自らのフォースエネルギーを纏わせ、再度接近し斬りかかる。
「(フン、何を纏ったところで・・・・・・・)」
どうせ結果は同じだと、ムーンフェイスは先と同様に前腕部での防御体勢に入った。だが、
「フンンッ!」
「!? 何・・・・・・」
パンドラの振り下ろしたフォースエネルギー付きの刃は、その予想に反し間違いなく大きな一撃をその左腕に刻み込んだのである。
「まだまだァァァッ!」
「このッ・・・・・・図に乗るなァァッ!」
そのまま更に追撃をたたみ掛けようとするパンドラに対し、ムーンフェイスは即座に左腕の傷をナノマシンの力で再生すると、そこから放った流星弾でパンドラにカウンターをくらわせた。
「グッ!」
まともにくらったパンドラは、後方に盛大に吹っ飛び、そのまま地面に叩きつけられる。
*
「パンドラさん!」
「! アリスか」
アリスの呼び声に、仰向けで地面に転がったパンドラが視線を向けると、彼女は全身で必死に赤ずきんの自由を押さえ込んでいた。
「既にオーダーを満たしていたか・・・・・・・良し」
ならば先に赤ずきんを仕留めて封印してしまおうと、パンドラはフォースウィングを羽ばたかせて上昇し、必殺の体勢に入る。
「ムーンライトキック!」
「おのれ、させるか!」
既にキック体勢に入っていたパンドラを止めるべく、ムーンフェイスも背中のメインブースターと全身のスラスターを最大限に吹かし、パンドラに体当たりしにかかった。
「パンドラさん、危ない!」
そこでアリスは折角それまで赤ずきんをガッチリ捕まえていた両腕のうち、ムーンフェイスを吹き飛ばすために左腕を離すという(パンドラからすれば)絶好のチャンスをみすみす逃がす大失態を演じたのである。
離した左の手から放たれた反重力波は、見事にムーンフェイスに直撃し、ムーンフェイスは後方に吹っ飛んだ末、地面に墜落した。だが・・・・・・
「このっ、馬鹿者ォ!」
「あッ!」
アリスの左腕と意識が同時に自分から離れたその一瞬を、赤ずきんは決して見逃さず、身体を回転させてその肉の牢獄を脱すると、今度は逆にアリスを後ろから拘束し、右手で引き抜いた銃をパンドラへと向けたのである。
「チッ、何故手を離した!」
すんでの所でどうにかムーンライトキックを解除したパンドラは、アリスを問い詰めた。
「だ、だって・・・・・・そうしなきゃパンドラさんが」
確かに事実そうしなければ、ムーンフェイスの妨害は成功し、パンドラは空中でキック体勢のままムーンフェイスに突き飛ばされていた訳である。
それが分かっているだけに、アリスの意図を無下に出来ないパンドラは、舌打ちを最後にそれ以降の追及を止める。
「分かった、もう戻れ」
「は、ハイ!」
すると次の瞬間、アリスは紋章形態となって赤ずきんの拘束を脱し、瞬時にパンドラのブローチへと舞い戻った。
「!」
突然の出来事に一瞬戸惑う様子を見せた赤ずきんだったが、即座に目標をパンドラへ変更し発砲する。
「さぁ、選手交代だ」
赤ずきんの攻撃をフォースバリアで防ぎながら、パンドラは一言そう呟き、背後に再びアリスを召喚した。
その直後、迫っていたムーンフェイスの流星弾を、アリスは反重力波で弾き立ち塞がる。
「よもや童話主人公に相手されるとは、私もつくづく・・・・・・舐められたものだッ!」
「ぐっ!」
ムーンフェイスは更に接近し、至近距離から流星弾を浴びせようとするが、それもアリスによって反重力波で弾き返され、ならばとそのまま肉弾戦に持ち込んだ。
「ハァァッ!」
「うっ、グッ・・・・・・」
それをどうにか反重力波で受け止めるアリスに、ムーンフェイスはそれを利用し、再度右と左からそれぞれパンチを放ってわざとそれを受け止めさせ、アリスの両手を塞ぐ。
そしてそのまま押し合いをする一方で、同時に胸部中央から大型の粒子ビームを発射した。
ところがアリスは、両手が塞がったまま自身の胸部中央に重力球を生成し、ムーンフェイスの粒子ビームを全て飲み込んだのである。
「何だと!?」
*
その頃パンドラは、赤ずきんの銃撃の嵐をフォースバリアで凌いでいた。
「チッ(やはり奴の連射速度にこちらも遠距離で対抗するのは難しいか。懐に潜り込む必要がある。フォースウィングの速度に賭けるか)」
持ち前の機動力で以って一気に接近するしかないと考えたパンドラは、フォースウィングを展開し、再び飛翔する。
息つく暇も無く飛来する赤ずきんの焔の弾丸を、パンドラは右へ左へ、時に上へ下へとかいくぐりながら、一瞬の隙を窺っていたパンドラは、銃撃が止んだ僅かな瞬間に赤ずきんの正面至近距離に躍り出た。しかし、
「!?」
次の瞬間、目の前に二つの太陽の様な球体が現れると、それらは一瞬でパンドラを呑み込む。
「グアアァァァァッ!」
赤ずきんによる、二丁拳銃のチャージショットであった。
球体に呑み込まれたまま、後方へ数メートル吹っ飛び地面に叩きつけられる。
「パンドラさん!? キャァァァッ!」
パンドラの悲鳴に思わず背後を振り向いてしまい、その隙を突かれたアリスは流星弾の直撃を受け、同じく後方へ吹っ飛ばされた。
背中合わせとなった二人を、赤ずきんとムーンフェイスがそれぞれ挟み、更に赤ずきんの焔が周囲を覆う。
「くっ!」
チャージショットと粒子ビームが二人に止めを刺そうとしたその時だった。
「!?」
その時、森中に広がっていた焔を氷の波が覆い尽くし、焔の球体とムーンフェイスの砲口が一瞬で氷結する。
パンドラに狙いをつけていた赤ずきんは、拳銃の引き金に生じた異変に構えを解いた。
「この氷魔法は・・・・・・まさか」
見覚えのある氷魔法に、パンドラは氷の波が来た方向へ視線を向ける。
「間に合ったか。今助ける!」
「やはり君等だったか」
戦力を立て直したフェンリルを引きつれ現れたガルルは、パンドラ達を見つけるとすぐに赤ずきんとの間に割って入った。
「今度は俺達とも遊んでもらうぜ!」
ガルルがそう言うと、フェンリル一味は赤ずきんを氷付けにするべく、一斉に口から青い焔を吐き出し、攻撃を開始する。
「・・・・・・」
だが赤ずきんはそれを全く意に介することなく、焔を繰り出し銃を包み込むと、いとも簡単に引き金の凍った銃を解凍し、フェンリル一味の攻撃に対して即座に銃撃でせき止めて見せた。
「クッ!」
攻め手に欠けるフェンリル一味に対し、赤ずきんは更に銃撃を浴びせ続ける。
しかしパンドラはそこを、フォースウィングを展開して飛翔し、赤ずきんの死角から突っ込んだ。
「!」
だが赤ずきんはこれに気付くと、二丁拳銃の片方でフェンリル一味への攻撃を続行しながら、もう片方をパンドラに向け、チャージショットの発射体勢に入る。
そして懐に入り込んだパンドラが両手に生成していたフォースボールを合体させるのと、赤ずきんがチャージショットを放ったのは同時だった。
「「!?」」
互いに至近距離で相打ちした二人は、それぞれ後方へ盛大に吹っ飛び、地面に転がる。
「グッ!」
二人が地面に転がったのは同時だが、パンドラの方が先に起き上がった。
そこからパンドラは、フォースウィングを羽ばたかせて飛翔し、彼女を必殺の射程圏内に収める。
その姿を捕らえた赤ずきんも銃で迎撃を開始する。
「くっ、野郎共ォ! 奴の攻撃を一発たりともパンドラに当てるなァ!」
ここが赤ずきんを倒す最大のチャンスだと感じたフェンリル一味は、ガルルの指揮の下、総出で赤ずきんの銃撃を撃ち落しにかかった。
「ムーンライトキック!」
フォースエネルギーの凝縮された右足の先に、蝶と月の描かれたパンドラの紋章が現れ、赤ずきんの銃撃からフェンリル一味が決死の氷魔法で守る中、パンドラはフォースウィングを羽ばたかせて急降下した。
「ッッッゥぅッ、ッゥゥゥ・・・・・・・ッァああァァァッ!」
およそ人間のものとは思えないような悲鳴を上げつつ、赤ずきんはポニーテールの少女の横顔と焔が描かれたステンドグラス風の紋章形態へと姿を変える。
「おおおおおおおおッ!」
「いよっしゃあああああっ!」
「これが童話主人公を倒したという事か・・・・・・」
フェンリル一味が喜びの歓声を上げる中、初めて童話主人公を倒すという条件を満たしたパンドラは、自身の紋章を紋章形態の赤ずきんに投げつけ、封印を遂げた。
*
一方、アリスとムーンフェイスの戦いにも新たな戦況の変化が訪れようとしていた。
粒子ビームの砲口を凍結され、刀も破壊されたムーンフェイスの装備は、残すところ両手のアクティブアームそこから放つ流星弾。そして両足先から展開するビームサーベルのみとなる。
「増援だと? だが君への援護は無い様だな!」
ムーンフェイスは、今ここでアリスだけでも倒して洗脳しようと、右手から流星弾を繰り出し、アリスに迫った。
しかし戦況が有利に働いたのが功を奏したのか、アリスは以外にも近距離からのムーンフェイスの攻撃に対し、冷静に重力球を作り出して彼の流星弾を右手毎呑み込む。
「!? グオォッ! このッ・・・・・・」
その高密度の重力球に、ムーンフェイスは右手のみならず、右腕そのものが呑み込まれそうになり、慌てて引き抜くも、残ったのは肘までであった。
「チッ・・・・・・だが甘いな!」
そう言うと、ムーンフェイスは即座に右腕の再生を開始する。しかし、
「でぇいッ!」
「何ッ!?」
次の瞬間、アリスは再生を始めた右腕の断面を覆い尽くすように新たに重力球を発生させ、それを阻止したのである。
「グッ・・・・・・再生するそばから吸い尽くされるだと? この小娘がァァッ!」
「くっ!」
右腕に纏わり付いている重力球を引き剥がそうにも迂闊に触れられず、怒りに震えながらムーンフェイスは左腕のアクティブアームを飛ばそうするが、それすらも新たに生成した重力球に覆い尽くされ、結果的にムーンフェイスはアリスに両腕を封じられてしまうのだった。
「貴様ァァァァァァァッ!」
怒りが頂点に達したムーンフェイスは、ブースターを吹かし、最後の武装であるビームサーベルで斬りかかった。だが――
「!?」
突然、後ろから何かに引っ張られるような感覚と共に、アリスが半ば強制的に紋章形態へと変化させられた。
「あぁあれぇぇぇ~~???」
《赤ずきん編――最終部へ続く――》
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