第66話 今はどこにいるのか
俺達は、木曽に向かっていた。
木曽といえば平安時代に源平合戦で活躍した木曽義仲が思い浮かぶ。逆に言うとそれ以外俺には思い浮かぶことがない。思い浮かぶものと言えば山だということぐらい。木曽イコール山。そんな認識を持っている。
ただ、木曽に向かうにしても今はどこにいるのかまったくわからない。佐久を過ぎた後からまったく分からない状況だ。
「今、ここはどこなんだ?」
俺は聞く。
誰にという訳でもない。
誰か答えてくれる人がいればいいやぐらいに聞いてみた。
「わからないよ」
「流石に俺も分からないな」
佳奈美、竜也の2人にはどうやらわからないらしい。さすがにこればかりは知識では無理らしい。まあ、分かっていたらとても怖い。現代における長野県を知っていたとしても景色が全く違うのだからここが何処かなんて答えられるわけない。
「菊川わかるか?」
俺は現代人では無理だということなのでこの時代の人物、足軽の菊川に聞いてみることにした。
「ここがどこかですか? え、ええっとここは諏訪郡だと思われます」
菊川は答える。
しかし、良く出てきたなと俺は思った。
「ああ、諏訪か」
「諏訪なのね」
諏訪と聞いて竜也と佳奈美の2人が納得する。
「合点が早いな」
「そりゃあ、現代においても佐久市の隣は諏訪地域だからそろそろ諏訪に入ってもいい頃合いだと思っていたからな」
「そうだよ。長野の諏訪と言えば諏訪氏の本拠地……天正壬午の乱の時に独立するから……これは仲間にしておいた方がいいんじゃないのかな」
佳奈美が思い出したかのように言う。
しかし、俺には聞きなれない言葉が出てくる。
「天正壬午の乱って何だ?」
俺にとってその戦は知らなかった。
この時代にそんな戦が存在していたのか。
「ああ、天正壬午の乱っていうのは本能寺の変のあと、織田家の影響がなくなった信濃国、上野国などをめぐって北条氏直と徳川家康が争った戦のことだ。まあ、他にも真田が暴れていたり諏訪が独立に動いたりといろいろな武士の思惑が絡んでいるから一概には言えないんだけどな」
竜也が説明をしてくれている。
「ちなみに現在進行形でこの戦は起きている。本来であれば。菊川今戦は起きているか?」
「いえ、この地域では徳川様はまだ動いていません」
「ということは、歴史が少し変わったかもしれない」
竜也が冷静にものごとを考えているようだ。
「歴史が変わったのかな?」
「本来起こるはずのことが起きていないとなるとやっぱり歴史は変わったということになるんじゃないか?」
佳奈美が本当かなあと言っていると竜也は自信をもって答える。
「歴史ってそんな簡単に変わるものなのか」
俺はそんな2人の考えが高度すぎて分からないので暢気に変わったのかあということだけ考える。
「まあ、それはそうとしてこれはチャンスだ」
「チャンス?」
俺は竜也の言葉がわからなかった。何がチャンスなのか。
「歌川が言ったが、諏訪氏はこの時当主が織田軍に攻められ滅ぼされた時期だ。だからこそ、織田家が諏訪氏の一族のものを当主にすると提案すれば乗ってくれるに違いない。そうすれば諏訪氏は滝川派になる。滝川殿にも提案してみよう」
「なるほどね。織田が滅ぼしたものを復活させたとなれば恩を売れるしね。結構考えているね」
竜也と佳奈美の2人はどうも高度に考えていた。
俺にはまったくわからないことだったけど。
「じゃあ、お2人様の意見は興味深いので滝川左近将監様のもとへ行って聞いてみましょう」
菊川が提案する。
そして、俺らは滝川一益のもとにそのはなしを持っていくことになったのだった。
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