第54話 そのころ滝川一益
忠志達がわいわいと京へ行こうと計画を立てている頃のこと。
上野国厩橋城の城内。
「京へと行くか。この時期にいろいろと考えているようじゃが、さて儂はこの後どうしたものか」
「殿は、まず信長様亡き後の織田家がどうなるかを見定めなければなりません。そのためにも柴田様、丹羽様とお会いになるのがいいでしょう」
滝川一益の部屋。男2人が部屋にいた。1人は滝川一益本人。そして、もう1人は彼の側近ともいうべき存在である滝川(木全)忠征の2人だけがいた。
「彦次郎。確かに彼らは織田家四天王の一角。儂自身も織田家四天王と呼ばれているが……さて、ところで野村殿の話を聞いたか?」
「いえ、野村殿の話は全く伺っておりませんが、殿が気になさるようなことがありまするか?」
うーん。
忠征の言葉に対して言おうか一益は悩んだ。
ちなみに一益は忠征のことを彦次郎と呼んでいる。忠征は滝川姓を名乗っているが元々は木全忠澄という美濃の国人の子であった。しかし、一益に忠征は仕えて活躍してから滝川姓を与え、滝川一門の1人として一益のために活躍をしていた。
一益は忠征のことを信頼している。だからこそ、言おうか言うべきではないかと悩んだ。しかし、結局は言うことにした。
「野村殿は未来から来たと言っている」
「ええ、その話なら知っています。本人が言っていましたから」
「そうか。ならば、話は早い。この後、どうなるかについて野村殿から聞いた」
「これからどうなるかについて……それはさぞ気になるような内容でありますね」
「ああ、その内容によるとこの後天下は統一するらしい」
「天下が統一……信長様の願いが叶いますね。で、誰が天下を統一するのでしょうか? 柴田様、丹羽様、もしかして殿でございますか?」
忠征が出した名前は現時点で最も天下を取るに値する人物だ。それはこの話を聞くまで一益も思っていた。
しかし、実際は違う。
なので、首を振った。
「天下を統一するのはサルだそうだ」
「羽柴様、ですか」
「信長様を討った明智を倒しサルは一気に力を強めるらしい。それに対して柴田や丹羽が対抗しようとするも柴田はサルに討たれ、丹羽は隠居同然へと追い込まれるらしい」
「そ、そんなことが……と、殿はどうなるのでしょうか?」
「儂か。儂も丹羽と同様に隠居へと追い込まれるらしい。しかも、四天王の一角として有力だった人間の見る影もないほどみじめな程な没落だと後世では語られるらしい」
「と、殿が、殿の未来がそんな暗雲を込めているとは信じられません」
忠征は嘘だと声を荒げた。
しかし、この話を嘘だと言えばウソになるが、あながち嘘になるようには思えないと一益は思ってしまっていたのだ。
この真相を明かすためにもまずは上方へと向かい織田家中枢の動向を見極めなければならない。
一益が忠志達の京行きを許可したのにはこのような思惑があったのだ。
しかし、このような本心を伝えることはない。伝えたのは忠征にだけだった。忠征を信頼して伝えた。
「儂は絶対に生き残る。サルに付かなければならなくなったらその時だ。サルの下でも働くぞ」
「そのためには情報を収集しなくてはいけません。伊賀者を使って情報を集めます」
「任せたぞ」
「御意」
この後、忠征は部屋を去った。
部屋に残った一益は紙を手に取り何か書き始める。
忠志達の考えの裏で一益はまた別の思惑を立てていたのだった。
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