第37話 小幡上総介
次に向かったのは小幡信貞の陣であった。さっきまで散々新田の話をしていたのでその流れで由良の陣に行くような気がしていたが先に到着したのは小幡の陣であった。
「小幡殿失礼する」
弥介がそういうと小幡の周りの武士が名を名乗れと言ってきた。
「私は、北条高広様の小姓弥介と申すものです。小幡上総介殿に話がございまして来た次第でございます」
弥介が堂々と自分の身分を名乗る。
その言葉を聞いた武士らは「よかろう、中に入っていいぞ」と言って俺らは陣の中に案内された。
「意外とすんなり入れるものですね」
「まあ、私は結構北条様の使いとして上野のいろんな国衆と接点があったので名前を名乗れば簡単に中に入らせてもらえるのです」
それを見越して北条高広はこの小姓弥介を俺らに遣わしたのか。俺は、少し関心をした。北条高広という男のことを今まで知らなかったが、かなりすごい奴だったんだな。そんな評価を俺は勝手に頭の中でしていた。
「おそらく、陣中の奥に小幡殿はいらっしゃるはずです」
「いや、儂はここにいるぞ」
「「「えっ」」」
急に横から声をかけられてびっくりしてしまった。
横を振り向く。
そこにはさっきまで誰もいなかったはずなのに人が、男が1人立っていた。急に立っていたのでかなり驚いてしまった。
「そこまで驚くとはな。で、だ。おぬしらは何が目的で儂のもとにきた?」
「小幡殿」
「えぇっと、確かおぬしは北条殿の小姓弥介とか言ったな」
「その通りでございます。実は、話がありまして来た次第です」
「ほお、話か。北条殿が儂に要件があるとはかなり珍しいこともあるものだ」
小幡の今のセリフでなんとなく北条と小幡の関係が分かったような気がする。北条が小幡に話しをすることがめったにないということはこの2人の関係はさほどいいものではないのだと思った。
「それで、そこの他の者たちは?」
「はい。私達は、北条殿にお願いをして小幡殿に話しを伝えに来たものです」
「そなたたちが話の本題というわけか……まあ、話してみよ」
「では、小幡殿はこの戦どうなるとお考えですか?」
竜也の言葉に小幡の顔つきが変わった。
急変したのだった。
「それは、どういう意味だ?」
「言葉通りの意味です。この戦に勝てると見込んでいるのか尋ねているのです」
俺には厳格かもしれないが、竜也と小幡との間に火花がバチバチぶつかり合っているように見えた。
見えない戦がここで行われているような気がした。どうしてだか、自分でもわからないがそんなような気がした。
でも、そのことを感じていたのは俺だけではなかったようだ。隣にいた歌川もあわわ、と慌てていた。
戦国の知識に詳しい歌川なら竜也の真意を読み取れるような気がしていたが、そうではなかったようだ。
「おぬしの名前は何という?」
「野村竜也です」
「では、野村殿。この戦に勝てるかどうかだが、そもそも勝てると思いか?」
小幡の言葉に俺は絶句してしまった。だって、これから戦に出る人間が負けを認めるような発言をしているからだ。そんな発言をされてしまえば驚くに決まっている。
「それは、この戦をはなから負けると決めつけているということでしょうか?」
「そもそもだ。この戦は滝川と北条の戦いだ。儂は、一応は滝川に付いているが、あいつには恩というものはない。儂の行動原理はただ一つ。北条には付きたくはないということだ」
小田原の北条氏は関東の覇者となるために群馬にもたびたび攻めてきていた。そのことにかなり不快感を抱いていたのが群馬の元々いた国人衆らとのことだ。竜也が俺に付け足すように説明をしてくれた。
俺だって、それぐらい知ってい─なかったですけど。もうちょっとさあ、ここまで戦国についての知識がなくて2人の足でまといになっているのだから、若干のコンプレックスというか負い目に感じているのだから、もう少し優しくしてくれよと思った。
「ですが、この戦に負ければ滝川のいや、もっというと織田方現在の日の本最大の大名の上野での支持基盤を失い、完全に上野は北条のものになってしまいますよ。それでいいのですか?」
「そうなんだ。そこが儂の一番の不安だ。負けることが分かっている以上、どうしようもないと思っているのが本音だが。どうかいい案はないかね」
いい案と言われてもなあ。
俺にはそんな案が出てくるわけがない。
こうなると頼ることができるのは竜也とそして歌川の2人だ。この2人ならきっと何か案があるはずだ。とっておきのアイデアの1つや2つあるだろう。
「あっ、先に言っておくけど私は作戦を立てることは苦手だからあてにしないでね。『信長様の野望』でも作戦を考えるのは苦手だったし。それに私って女子だから人の方に注目する系なの。だから、野村君に全部任せたよ」
「……おいおい、みんなして全部人任せかよ……まあ、そんな気もしていたけど」
「なら、いいアイデア出してね」
「儂からも頼む」
歌川そしてまさかの小幡からも頼まれるという状況になってしまった。
果たして、竜也はアイデアを出すことができるのだろうか。
少なくともそう簡単には出そうな気がしないけど……
「うん、そうだな、じゃあ──」
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