第24話 告白



 俺は、北条高広の言葉により思い立ち、歌川を追いかけた。


 歌川。歌川。


 俺は歌川を探す。


 歌川のことを俺はどう思っているのか。好きだったと思う。でも、告白をしたいとは思ったことはなかった。内心。どこかで今のままの関係が一番であると思っていたからかもしれない。歴史研究部の部室で歴史について楽しく話したり、けんかしたり、じゃれ合ったり、そんな他愛もない友達としての関係が俺にとって一番いいものであると思っていた。


 いや、本当は振られるのが怖かっただけなのかもしれない。告白をして振られて今のような何事もない関係が壊れてしまうのを恐れていただけなのかもしれない。


 だが、北条の言葉で思い知った。ここは、もうあの平和だった現代社会、元の時代ではない。戦国時代だ。武士と武士が刀や火縄銃をもってお互いを殺す無常の世だ。俺は農民となることを決めたが、農民も戦いに駆り出されることがあるし、農民も戦に巻き込まれることはある。だから、明日を生きるということが非常に難しい世だ。歌川も武士と一緒に行動するし、何が起こるかわからない。


 俺の思いをしっかりと伝えたい。


 そんな思いに駆られる。



 「歌川ぁー」



 もう一度歌川の名前を叫ぶ。



 「何か、うるさいんだけど」



 俺が、歌川の名前を叫ぶとすぐさま近くで返事がした。俺は、名前を叫んでいるだけで周辺に目が行っていなかったので周囲をしっかりと見渡してみる。


 神流川の支流の名前もわからない川のほとりに歌川は座っていた。



 「ごめん……」



 俺は、ちょっとうるさくしすぎたと思いとっさに謝ってしまう。


 俺は、謝ると歌川が座っていた横に行き、腰を落とす。座った。


 俺が横に座ったことに歌川は驚いていた。


 何でおれが横に座っただけで驚いた顔をするのですかね。俺としては不満しかなかった。不満というか俺という認識がそのようになされていたのかということを歌川の態度から思い知らされたようで個人的なショックを受けてしまった。


 「……」



 「……」



 俺が、歌川の横に座ってからしばらくの間お互い何もしゃべらなかった。ここで漫画とかラノベの世界であったら2人の周辺は静かで沈黙が世界を支配していたとか言う感じの字の分が作るであろうが、俺達の周辺というか、少し離れた場所では武士たちが戦場だというのに飲んだり食ったりしている宴会での騒ぎ声が聞こえていた。 


 少しは空気を読めよ。


 俺は思わず怒ってしまいたくなる。俺達の空気を壊すことがそんなにも楽しいのか、武士どもは。


 まあ、空気を壊されているが俺としては実は少しそのような状況が緊張を紛らわせてくれているようでどこが良いと思ってしまっている自分もいた。


 これからやることを考えるともっとロマンチックだったりした状況の方が本当ならばいいんだけどな。



 「……」



 「……」



 覚悟をそろそろ決めないと。こんな沈黙の時間をずっと過ごすのは俺のメンタル的にもきつい。早くきついことは終わらせたい。こんな告白前のドギマギした時間は早く終わらせないと精神的にきつい。



 「はぁー」



 1回。深呼吸を大きくする。


 吸って、吐いて。吸って、吐いて。


 2回していた。……いや、そんなことどうでもいい。緊張で本当にどうでもいいことしか出てこない。というか、今から告白をするといってもどのように告白をすればいいんだ。


 今は夜だ。


 夜と言えば、月。月と言えば、「月がきれいですね」だ。……いや、あれは夏目漱石の言葉だし、そもそも明治の話だし、それにあれは実は嘘とかそんな話もあるし。じゃあ、なんだ。「好きです、付き合ってください」とか無難なものでいいのか?


 もっと、そういった告白についての本とか読んでおくべきだったと自分でも反省をついしたくなってしまう。ついというか、反省をしなくてはいけない。初めての告白だからそれぐらいの準備というものが大事だ。


 ……そろそろ現実逃避をやめなくてはいけない。



 「……歌川」



 「……何、小田君?」



 「大事な話があるんだ」



 「大事な話?」



 俺は、歌川の言葉にこくりとうなずく。


 顔の周辺が暑かった。おそらく、今俺の顔は真っ赤になっているのだろう。その証拠に歌川の顔も赤く染まっていた。俺が何を言おうとしているのかなんとなくだが、分かっているということだろうか。


 いや、まさかな。


 俺が、歌川のことを好きなのは一方的な片思いに違いない。きっと顔が赤いのは、今日一日いろんなことがあって疲れていることや、今は季節的には夏だ。暑くて顔が赤く染まってしまったのだろう。


 俺は、そう解釈をした。


 告白をしなくては。しなくちゃ。


 気持ちが揺らぐ前に一気に行ってしまえば楽なんだ。どうせ、この後の俺は農民として何事もなく過ごしていくだけなんだ。今だけだ。苦しいことは。



 「歌川。あのさ、俺、お前のことがす……」



 バシャバシャ



 俺の告白の言葉は途中で止まった。正確に何者かにより妨げられた。


 俺らの目の前の小さな川において何か水の中に(川の中に)人が入った音がした。



 「誰だっ!」



 俺は、叫ぶ。


 敵の可能性もある。


 歌川の目の前に立ち、守るような体制をする。


 川のあたりは、今月に雲がかかったためあたりは暗く誰がいるのか見えない。境界だけは怠らないように。武器はないので向こうが武士であり刀を振り回して来たらもうおしまいだ。それでも大好きな女子を守るだけのことはしたい。


 月にかかっていた雲が徐々に月から離れていき、あたりに月明りが照らされていく。


 そして、俺らの近くに来た人の正体が徐々にわかっていくのであった。



 「お、お前は!?」




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