私はべつだん得意にもならなかった。

 外に出て川の傍に戻り、弁当を食べて昼寝をする。

 そよと吹く風に毛がゆれて、耳には流れる水音が心地いい。日差しは柔らかく、木陰は優しく、私とミャイはうとうとと眠りに引き込まれ、やがて本格的な睡眠に陥った。

 そうして目が覚めて伸びをして、太陽を見るとそろそろ迎え……、というか、木の実狩りを終えた舟がここを通るころになっていた。

 私とミャイは船影を待ち、視界に映ると手を振って合図をした。

「どうだった」

 船頭をしていた鼻筋が長い方の犬に問われ、ミャイは肩をすくめた。

「すっごく古い家だったわ。ドアにも窓にも木の板が打ちつけられてたの」

「入れなかったのか」

 とは、鼻がつぶれたようにへこんでいる犬の問い。

「モケモフさんが、板を噛み割ってくれたから、中には入れたわ」

 へえ、と犬たちが感心した目で私を見た。

「すごいな。クルミの殻を簡単に割れる人だとは聞いていたが」

「木の板までとはなぁ」

 犬はそういうものは得意ではないと知っていたので、私はべつだん得意にもならなかった。ハムスターとは、こういうものだからだ。代わりに犬には、ハムスターには苦手な特技がある。――具体的に、どんな特技があるのかは知らないが。

「それで、中はどうだったんだ」

「どうもこうも、ねぇ」

 ねぇ、と言われても困る。

「暗くて、ほこりっぽかった」

 としか、言いようがない。

「そうそう。それでね、なぁんにもないの。がらんどう」

 どうやら私の返答は、正しかったようだ。

「でも、奥に階段があって、二階に上がれそうだったの。でもね」

 ちらりと、うらみがましい目をミャイに向けられる。

「準備をしてからのほうがいいって、モケモフさんが」

 シュンとしたミャイに、そりゃあそうだと犬たちは声をそろえた。

「モケモフさんの言うとおりだ。準備をしていったほうがいい」

「階段の木が腐っているかもしれないからな」

 犬たちが自分の味方をしないことに、少々不満気にしながらもミャイはうなずいた。

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