冒険にもならない冒険

 無駄なことで悩み続けないのは、いいことだ。

 感じる風は、吹いているものだろうか。

 それとも、こちらが動いているからだろうか。

 風に毛を揺らしながら、私は流れていく景色を眺めていた。

 私の横で、ミャイが楽しそうにしている。

 私たちは川をさかのぼる舟の上にいた。

 舟といっても、そう大きくはない。乗っているのは私とミャイ。それと船を交代で動かしている犬が2匹だ。

 1匹は黒と茶色の鼻筋が細い犬。もう1匹は茶色の鼻がつぶれたようにへこんでいる犬だ。どちらも体格は大きく、たくましい。お互いが交代で川に竿を差し、」ゆったりとした流れをさかのぼっている。

 太陽はようやく森の木々の上にあがってきたところだ。私たちの出立はそれよりもずっと前。空の端が赤くなるころだった。

 私はいつもの、ミャイに大量のリボンで飾られる格好ではなく、ミャイの母が作ってくれた洋服を身に着けている。森に入るのならば、こちらのほうが邪魔にならないだろうという好意で、縫ってくれたのだ。まったく、ありがたい。

 ミャイの両親に地図を見せ、どうしても行きたいのだと決意をみなぎらせたミャイに、両親はあっさりと了承を伝えた。それどころか、そこに行くための準備を積極的に整えてくれた。

 なんのことはない。

 地図に載っていた場所を、ミャイの父は知っていたのだ。

「狩りに行くヤツがいるからな。そいつに話をつけておこう」

 ミャイははたから見ても、それとわかるほどにガッカリとしていた。

 それもそうだろう。絶対に許諾を得るぞと気合充分に臨んだら、あっけなく了解を得られたのだから。

 しかし、目的は許可を得ることであって、気合を入れて説得をするという行為ではないのだから、むしろ無駄な労力を使わずによかったではないか。

 そうミャイに告げると、けろりとして「それもそうね」と準備へ意識を切り替えた。

 無駄なことで悩み続けないのは、いいことだ。

 ミャイの父はすぐに、地図の場所に向かう相手に話をつけてくれた。そして明朝に同道をしてもいいという返事を受け取ってきた。

 これほど簡単に運ぶのだから、危険な場所ではないのだろう。ミョミョルが地図と鍵をゆずってくれたのは、彼女もまた、その場所を知っていたからではないか。

 ちょっとした遠足という気分で、ミャイの両親は私たちを送り出したに違いない。そして舟を操る2匹の犬も、危険な場所ではないからこそ、私やミャイを乗せてくれた。

 ミャイが地図を広げて、茶色の犬が現在地を示している。もうすぐ目的の場所らしい。

 私は前方に伸びる川と、その両脇に広がる森に目を向けた。

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