漏れ出でるクルミの香りもたまらない。

 クルクルと手の中で回して、感触を確かめる。 

 間違いなく、私の知っているクルミのようだ。

 耳に当てて、軽く振る。実はしっかりと詰まっているらしい。

「どう?」

 うかれた声をひそめて、ミャイが言う。私はその場に座りこみ、後ろ足でクルミを固定して再度、回転させて殻を確かめた。

「試しても、構わぬか」

「もちろん。ひとつくらいなら、すぐにおとうさんが料理にして出しちゃうわ」

「そうか。ならば」

 本当は、割ったらすぐに食べたいのだが、人のものを勝手に食すのは良くない。

 ケージの掃除のたびに、貯めていたひまわりの種が奪われる悲しみを思い出し、私は食欲を抑えた。

「いざ」

 気合を入れて、口を開く。

「えっ」

 ミャイの驚く声を聞きながら、私は殻にかじりついた。

 ああ、この感触。

 歯に返ってくる硬質な感覚が、たまらなく心地いい。

 殻が薄くなるごとに、漏れ出でるクルミの香りもたまらない。

 私は夢中で殻に歯を立て続けた。

 そして。

「あっ」

 殻が割れ、ミャイが声を上げる。

「すごい! 殻が割れちゃった」

 私は見事なクルミを目にして、ゴクリと生唾を飲み込みつつ、食らいつきたい情動を堪えた。

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