漏れ出でるクルミの香りもたまらない。
クルクルと手の中で回して、感触を確かめる。
間違いなく、私の知っているクルミのようだ。
耳に当てて、軽く振る。実はしっかりと詰まっているらしい。
「どう?」
うかれた声をひそめて、ミャイが言う。私はその場に座りこみ、後ろ足でクルミを固定して再度、回転させて殻を確かめた。
「試しても、構わぬか」
「もちろん。ひとつくらいなら、すぐにおとうさんが料理にして出しちゃうわ」
「そうか。ならば」
本当は、割ったらすぐに食べたいのだが、人のものを勝手に食すのは良くない。
ケージの掃除のたびに、貯めていたひまわりの種が奪われる悲しみを思い出し、私は食欲を抑えた。
「いざ」
気合を入れて、口を開く。
「えっ」
ミャイの驚く声を聞きながら、私は殻にかじりついた。
ああ、この感触。
歯に返ってくる硬質な感覚が、たまらなく心地いい。
殻が薄くなるごとに、漏れ出でるクルミの香りもたまらない。
私は夢中で殻に歯を立て続けた。
そして。
「あっ」
殻が割れ、ミャイが声を上げる。
「すごい! 殻が割れちゃった」
私は見事なクルミを目にして、ゴクリと生唾を飲み込みつつ、食らいつきたい情動を堪えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます