第百二十話 優しさ売り場にて

「量り売りの優しさはもういいかな……」

「あんたも贅沢だよね。買えない人ももらえない人もいるのにさ」

「わかってるよ。だからいつも受け取っちゃう。でも……」

「それは優しさじゃないって言うんでしょ?」

「わたしにとっては、ね」


 人に優しくしなさい、の優しさ

 人に優しくされたい、の優しさ

 人に優しくしてるよ、の優しさ

 人に優しくしたいの、の優しさ


 同じ売り場で、同じように量り売りされているけど

 それは全部別物で

 本当に優しさかどうかもわからない


 わたしは

 売り場に並べられている優しさを目で味わう

 量り売りで切り取られてしまうと

 どれも優しくなくなるから


「いらっしゃいませ。どれくらい御要り用でしょうか?」

「あ。いえ、見ていただけです」



【 了 】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る