第十一話 わたしと云ふもの

 わたしは、誰?


「君は、君さ」


 わたしは、どこに行ったの?


「君はそこにいるだろ?」


 でも、これはわたしじゃないよ?


「いや、君は間違いなく君さ。それ以外の何者でもない」


 わたしは置いていかれたの?


「君は今そこにいるんだろ? その意味を考えた方がいいと思うけど」


 だって、わたしはわたしじゃないもの。

 わたしがわたしでなければ、何も出来ない。


「そう? 君は君だし、今の君にしか出来ないことがいっぱいあると思うけど」


 わたしは、わたしから切り離された。そしてここに捕まってる。

 わたしを……返して。


「それは……無理だと思うな」


 どうして?


「君がもう……どこにもいないからさ」


◇ ◇ ◇


 むくろの横に舞い散った鳥の胸毛。その一つ。


 それはまだ、命ある存在であることにしがみついているかのように、微風に揺れる。そして、そこだけほんのり空気が暖まる。


 ああ、間違いない。僕らは毎日それに抱かれている。


 命なきもの。でも、かつて命を抱いていたもの。

 そのどちらも君であり。そのどちらも君ではない。


 幾千万のアヒル。

 幾千万のガチョウ。


 その亡霊が、毎夜僕を暖める。

 そして、僕は夜な夜なその問いを聞きながら眠りにつく。


「ワタシハ ダレ?」



【 了 】


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