第96話「再会」

 ──新国王即位にまつわるすべての催し物が終わり、一夜が明けたシュティリケの朝。


 セシルとシルヴィア、アメリアの三人は、テレジオに案内されてシュティリケ城の廊下を歩いていた。


 新シュティリケ王国を樹立するラクロを支えるために王都を去ったテレジオは、国家成立後も官職に就くことはなく、今でもただの付き人としてラクロのそばに仕えているのだった。


「お三方とも、また一段とお美しくなりましたね」


「まあ」と嬉しそうにアメリア。


 シルヴィアが「そういうの、反応に困るからやめてよね」と照れ臭そうに肩をすくめる。


「僕も、そういうこと言われても……」


 セシルも困惑顔で答え、テレジオはそんなセシルを見つめて、


「そんな謙遜しなくても。セシルは本当に、このお二方と並んでも見劣りしない素敵な女性だと思いますよ」


「……え?」


(……女性?)


 セシルはぽかんと口を開ける。驚いて二の句が継げなくなり、


「あら……あんた、知ってたの?」


 代わりにシルヴィアがテレジオに問いかけた。


「ええ」


 テレジオはあっさりと頷く。


「騎士云々の問題もなくなりましたし、性別のことはもう隠さなくてもいいんでしょう? ねぇ、セシル」


 くすくすと笑うテレジオに、セシルは「い、いつから!?」と詰め寄った。


「いつから気づいてたの!? 僕が女だって……」


 テレジオはあっけらかんと「結構前からですね」と答える。


「一目見たときから怪しいとは思っていましたが……確信したのは、王都へ向かう途中の川で水浴びしたときですかね」


「そ、そんなに前から……!?」


「ええ。ラクロが気づかないのが不思議なくらいでしたよ」


 テレジオは楽しそうに、


「今日はセシルの女性らしい姿が見られると思って、楽しみにしてたんですけどね。ついでに、ラクロの驚いた顔も」


「わかるわ」とシルヴィアが同調し、アメリアも「みんな考えることは同じなのね」とのほほんと微笑む。


「もちろん、今のパンツドレスもよくお似合いですけどね」


「でしょ? あたしが選んだのよ」


 自慢げに言ったシルヴィアに、テレジオは「素晴らしい見立てです」と返して足を止めた。

 目の前の扉をノックし、


「……ラクロ様。アメリア様とシルヴィア様、セシル様をお連れしました。失礼してもよろしいでしょうか?」


 中の主人あるじに問いかける。


 すると、扉の向こうから、短く「入れ」という返事が聞こえた。

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