第67話「始まりの地へ」
夜の森を、一台の高速馬車が走っていた。
乗っているのはラクロとテレジオ、そしてエドウィンと、王都に向かっていた道を引き返してきたシルヴィアだった。
ラクロが飛ばした連絡用の式神を受け取ったシルヴィアは、王都に戻ってこいというヴィクトル王の命令に背いてラクロたちの元に戻ってきたのだ。
「ま、仕方ないわよね。一応、セシルは友達だし。助けないわけにはいかないでしょ?」
豊かな桃色の髪をかきあげたシルヴィアは、マジスタはクビかしらね、と肩をすくめた。
「結構苦労してここまで上り詰めたのに……。ま、でもいいわ。あたしくらい賢ければ王宮以外でも引く手あまただろうし」
──きっと、なんとかなるわよね。
そう言ってシルヴィアは気弱に笑った。
立場を追われることになるのは、他の三人も一緒だった。
負傷したフリで戦場から抜け出したラクロ、テレジオ、エドウィンは、そのままひっそりとそれぞれの部隊から姿を消していた。
決着が着くまで……どちらかの国がどちらかの国を滅ぼすまで待っている時間は、なかった。
アルファルドでは今、一般国民にも徴兵が課されている。
そんな状況下で騎士団を抜け出すことがどういうことか、ラクロもテレジオも重々承知していた。
たとえ戦争が終わり、もう一度平和な時代がきたとしても、もう今までの暮らしには戻れない……。
それでも、セシルを放っておくわけにはいかなかった。
カタカタと揺れる車内で、リビングのソファに腰掛けて、シルヴィアが手足を縛られたエドウィンをじろじろと眺めていた。
テレジオは御者台に座り、一人馬を繰っていた。シルヴィアは道中、一般人の御者を戦地から遠い場所に下ろしてきたのだ。
「……信用できるの、彼?」
「さあな」
ラクロが答える。
隣を見ると、エドウィンの顔は月明かりに照らされて真っ青になっていた。
「だが、手がかりはこいつしかねぇのもたしかだ」
「そうね……」
「……嘘をついたら、殺してくれて構わない」
エドウィンが言った。その声は固く張り詰めている。
はっ、とシルヴィアが笑った。
「簡単に命かけちゃうあたり、本当の生き死にを知らないボンボンって感じね。……ま、いいわ。こんなことになって、じっとしていられないもの。……で?」
シルヴィアの瞳がきらりと輝く。
「あたしたちは今、どこに向かってるの?」
ラクロは静かに言った。
「シュティリケだ。元シュティリケ城に、セシルと
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