第62話「僕らは守るために在る」
セシル、ラクロ、テレジオの三人は、シルヴィアが書いてくれた簡易な地図を片手に基地に向かって歩き出した。
マンダール基地は王都の近衛隊の宿舎を彷彿とさせる石造りの建物だった。
寄宿用の部屋には小さな文机とクローゼット、そして左右の壁際に二つのベッドが置かれている。近衛隊の部屋と同じレイアウトだ。
(なんかほっとするな……。変なの。騎士なんて、最初はあれだけ嫌だったのに……)
セシルは一人、小さく苦笑する。
(それだけ王都で……いや。みんなと過ごした時間が濃かったってことかな?)
自然と王都での寮と同じように、セシルとラクロが相部屋を、テレジオが別の人との相部屋をすることになった。
アルファルド王国騎士団兵士隊が到着したのは、日暮れ前のことだった。
出迎えに外に出た三人に、騎士団長のダリアンが片手を挙げて「よっ」と笑いかける。
「久しぶりだな、おまえら。元気か?」
「……はい」「ああ」「ええ」
ダリアンはカラリと陽気な声で笑って、
「ついにきちまったなぁ、このときが。……ま、がんばろうぜ。ここで俺たちが押しとどめなきゃ、何の罪もない国民がつらい思いをすることになるんだからな。ったく、責任が重いったらねぇぜ」
兵士隊と別れ、部屋に戻ると、ラクロがぼそりとつぶやいた。
「……おまえ、なんでシルヴィアと一緒に帰らなかったんだよ」
セシルは荷物を整理していた顔を上げ、ラクロを見つめた。
ラクロは責めるような表情を浮かべていた。
「戦うってだけで、前はあれだけビビってたくせに……」
「……もう、怖くないからだよ」
セシルの声は震えていた。
「……嘘つけ。おまえ、さっきから手震えてるぞ」
「……嘘じゃないよ。震えてないし」
「いや、震えてるだろ」
「……震えてないって言ってるだろ!」
「逃げてもいいんだぜ」
「え……?」
ラクロは言う。
茶化すでもなく、からかうでもなく真剣に、まっすぐにセシルを見つめて。
「黙っててやるよ。……だから、どこにでも好きなところにいけよ。さっさとその目立つ髪染めて、戦争が終わるまでどっかに隠れてろよ」
「は……?」
セシルの中でふつふつと怒りがこみ上げる。
「……ふざけるなよっ!!」
気が付いたら、叫んでいた。
「あんまり僕を馬鹿にするなっ! 僕は、僕は決めたんだ! 僕はっ……!」
――君を守るって!
肝心な部分は声にならなかった。
セシルはただ目を丸くするラクロを睨み、弓矢を手元に引き寄せる。
「……とにかく、それ以上ムカつくこと言ったら、撃つからな」
「…………」
ラクロは何も言わずにベッドに横になり、ごろんと背中を向けた。
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