第17話「試験の行方」

 ……そして、ついに最後の一体が床に溶けて消えた。


「ふうん……。まあまあやるじゃない?」


 シルヴィアは偉そうに腕を組んで言った。


 セシルは急激な疲労感に襲われる中、重たい腕を動かして弓を背負い直した。

 いつもの、射撃が終わったあとのあの疲労だ。シルヴィアに情けない姿を見せたくなくて、膝をつくのはどうにか堪えていたが……。


「まあ、天才とは違うみたいだけどね」


 シルヴィアは一瞬だけ興味深そうな瞳でセシルを見つめて……すぐに、勝ち誇ったような目でセシルを見下みくだした。


「……やっぱり、そんなものはこの世にいないのよ」


 そして、高い位置にいる王を見上げて、


「……国王様。本日のあたしのお役目は、これでおしまいですわね。……それでは、あたしはこれで失礼いたします」


 桃色の頭を下げて優雅に一礼し、煙のようにさっと消えた。


「三人とも、ご苦労だった」


 静寂を取り戻した鍛錬場に、ヴィクトル王の声が響いた。


「それでは、試験の結果は明日みょうにち伝えよう」


 今日は下がってよいぞ、と王が言い、セシルたち三人と試験の行方を見守っていたダリアンが鍛錬場を出ようとした、そのとき、


「お父様! 彼は近衛隊にしましょう!」


 ……女の子の声が聞こえた。


 振り返ると、国王の隣に、いつの間にかシルクのドレスを着たたれ目の女性が立っていた。


 クリーム色の髪を肩のあたりで切り揃えた彼女は、ロンググローブの手で手すりを掴んで身を乗り出し、おっとりとした甘く響く声で叫ぶ。


「もちろん、アメリアの部隊よ!」


 ──アメリア。

 それは、アルファルド王国の王女の名前だった。


(あの人……もしかして、王女様?)


 現国王の一人娘、次期アルファルド女王アメリアは、父王の意向で滅多に一般の前に姿を現すことがないのだった。

 そのため、アルファルドに住んで三年のセシルも、いまだその顔は見たことがなかったのだが……。


「アメリア……それはおまえが決めることではないよ」


 先ほどの厳粛な雰囲気とは打って変わって、妙に人間臭い調子で王が言った。


「でも、お父様も見たでしょう?」


 アメリア──王女様はキラキラと輝く瞳でセシルを見つめる。


「戦っているときの彼の目、すごく綺麗に光っていたわ!」

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