第2話「異世界での生活」44
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試験など無くなってしまえ、と学生ならば誰しも思った事があるはずだ。しかし現実は非情であり無情。時は流れ、結局はその日を迎えてしまうのだ。そして嫌だ嫌だと言いながらも結果を残す為にそれなりの力を発揮する。
分かりきっていても“試験”というものは全学生、果ては人類の敵なのだ。極稀にこれが好きだと言い張る人間も居るだろうが、それはまた別である。
試験前独特の張り詰めた空気。何度と無く味わっているのだが、こればかりは慣れたくないものだ。
「よし……無理だ。諦めよう」
自席に座り、腕を組む昴。全てを悟ったように目を閉じる。昨晩何とか出来る範囲での勉強はしたつもりだが、所詮は付け焼刃。この総合学一科という全学科でもトップ中のトップに追い着けるだけの下積みがないのだ。
負けを認めたくは無いが、勝ちの見えない戦いというのも辛いだけ。だからこその悟り。しかも初っ端から苦手な商学と来たものだ。これでは力を出そうにも出せないのである。
慌しい空気が一気に引き締まった。前方の扉から教師の登場だ。最後の足掻きをする者がちらほら見受けられたが、それらもすぐに切り替えて試験態勢へ。
昴にしてみればこの世界では初めてのテストだ。それ故に少々緊張しているようだったが、これでも元は進学校の生徒。気持ちを落ち着けるのは得意なようだ。
問題用紙と解答用紙が配られるというのはこの世界でも同様。ただ未だに見慣れない文字や記号が並べられているのが裏返しでもよく分かる。顔を顰めたが、やるしかないのだ。
「行き渡ったな。では、始め」
宣言とほぼ同時、鐘が鳴る。紙を返す音。問題を読んだのか即座に書き始める音まで聞こえてくるではないか。しかしその程度のプレッシャーに押し潰されているようでは何も出来ない。周りの音を遮断し、集中。分かる訳がないのかもしれないが、弱音はあまり吐かないように。
(経営で必要になってくる知識について答えよ、ね……やっぱり穴埋めとか選択とか易しい感じじゃねえのな。っつうことはだ……)
名前を書き終え、さっと全体に目を通す。昴の世界であれば少なからず選択肢になっていそうな問題もほぼ全て記述だ。たまにある空白は恐らく穴埋め問題。全て解けないという最悪の事態は免れそうだ。
(必要な知識。知識なぁ……まずは金だろ? あと、なんだ?)
とりあえず金、と記す。いくつ書けとは提示されていないが複数書いておいた方が正解率が上がるはず。しかしこの最初の問題だけで大きく躓いている訳にはいかない。まだまだ先は長いのだ。分からない問題があったら先に進む、これは鉄則として教わってきた。分かる所から解いて、時間を割こうという作戦。
(まだ序盤なんだよな……負けたくはない、けど)
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