第2話「異世界での生活」41
既に空は明るさを取り戻そうとしているようだ。うっすらと陽の光が遠く雲の隙間から差し込みつつある。
その中を歩く心身共にボロボロの二人。特にセルディに至っては目に見える外傷も多く、更に背中には犯人だった物を担いでいるのだ。それでいて疲労している素振りは一切見せない。足取りも至って元気そうなのだ。
その姿に昴は感心しながら、自身の不甲斐無さに顔を顰める。小さな木の根で躓いて転びそうになり、弾みで幹に衝突したりと驚く程消耗していた。立っているだけでも相当辛そうである。
歩き続け、到着したのは――
「ここは……」
足を止めたのはクレイ家の敷地。目の前に現れた要塞のような建物。正門から入るのかと思いきや、セルディは正面ではなく裏側へと歩みを進めていく。
光の届かない暗い庭。まだ草木や動物も眠っているであろう時間帯。突如、セルディが建物の一部に蹴りを入れる。何も無いただの壁だ。昴はその行為に首を傾げ、何かの八つ当たりかとも思ったが、どうやら違ったようだ。
暫くするとカチリ、と何かが嵌るような小さな音。それから動力が伝えられたらしく少しではあるが地面が揺れているような――疲労でかなりの揺れに感じているだけなのかもしれないが――。
「すげえな……」
「おい、さっさと行くぞ」
セルディが蹴った箇所の壁が多少の埃を巻き上げながら割れ始め、現れたのは内部へと続く木製の上り階段。これこそ、このクレイ家に秘蔵されている複数の仕掛け内の一つである。その全貌を把握している者は居ないとされているが、それを昴に見せても良かったのだろうか。
秘密の隠れ家のようで少々憧れを抱いてしまっている昴を置いていくようにセルディは先へと進んで行く。急いで後を追い、階段へ。すると侵入と同時、再び壁が元通りに。真っ暗になると思いきや、自動で灯りが用意され、足元を照らしてくれる。何とも出来た家だ。
階段の先には天井。それを音を立てないように取り外すと人一人がやっと通れるような四角い穴に。ここは手動なのか、と口にしようとしたが諦めた。動く事のない犯人――人間でないのだからこの呼び方はどうなのかとも思ってはいるのだが――を階段に置き、まずは自分が出てから引き上げる。続くように昴も外に出ると、そこは建物の二階。このただ広い廊下には見覚えがある。
「それ戻しといて」
「あ、ああ……」
それ程重い素材で出来ていた訳でもなかったので、軽々と持ち上げ、穴に嵌める。他にもこのような仕掛けが隠れているのだとしたら試したくもなるのだが、今はそのような事をやっている余裕も体力もない。大人しく着いて行くだけだ。
そうして到着したのはとある部屋の前。きっとまだ眠っているであろう部屋主の事など考えもせずに、セルディは突入する。相変わらず音を出そうとはしなかったが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます