第2話「異世界での生活」34
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――もう何度目だろうか。こうして夜中に装備を整えて外出するのは。そうは言ってもまだ四回とか、その程度だったような気がする。妙に多く感じるのは睡眠不足から来ているものかもしれない。
宵闇に紛れる為の服装に、地図、犯人を拘束する為の縄、そして使わないかもしれないが短剣を携えた昴。一端の冒険衣装のようで少々気に入っている部分もあるらしい。
「今日も出るんですか?」
外出届に名前を書いているといつものように声を掛けてくるのは女性の職員。ここの寮の職員だけは最低でも昴の外出理由を把握しているらしく、渡された紙に即座に判子を押し、サインする。
「ええ、まあ。そろそろ出て来てもおかしくないですからね……それともやっている事に気付いて身を潜めてるのかもしれませんけど……」
返された用紙を懐に詰め込み、装備を叩いて確認しながら昴は言う。夜中にセルディと分かれてのローラー作戦を掛けているが、一向にその尻尾を掴むどころか、影すら窺う事も出来ていない。故に今日からは合流しての捜索だ。
「あんまり無理はしないでくださいね? はい、これ今日の分ね」
「いつもすんません。助かります」
新たに受け取ったのは小さな袋。この時間帯に出ると分かってからはこうしてしっかりと支給されるようになったのだ。昴は作戦を考える事は出来ていたが、ここまでは頭が回っていなかったのでとてもありがたい。
「でもこんなので良いの? パンとかでも……」
「いえいえ下手に食い過ぎても眠くなるし。このくらいでも十分ありがたいですよ。それじゃあ行ってきます」
「そうですか……気をつけて」
食料。とは言っても軽く食べられるお菓子のようなものだ。昴の世界で言うならばクッキーやスナック菓子に近いだろうか。挨拶を済ませいつものように外へ。
今宵向かうのは門周辺。この学院と外を繋ぐ場所だ。門、と聞くと警備が厳重そうなイメージがあるかもしれないが、ここはそうではなかった。夜になれば人通りは一切無く、教員棟や寮などからも死角になっており、更に警備などといったものもされていないのだ。例え侵入しても捕らえるつもりでいるのだろうが、些か無用心に思えて仕方ない。
「おう早いな。ほらよお前の分な」
「ん。……これで全箇所回ったって事になるんだよな?」
門の壁に凭れ掛かっていたセルディに食料を投げてそれから作戦会議だ。
「ああ一応な……さすがにここに来るのも居ないんじゃねえかなって思うけど。燃やそうと思えばここらも相当燃えるだろうし」
「人目は無いからやろうとすれば出来るか。早く顔を見てやりたいくらいだぜ」
「まったくだよ。こうも毎日睡眠不足じゃ体が保たないって」
どうもこの数日でセルディともある程度打ち解けられたらしくこうして会話のキャッチボールが成功している昴。初対面は最悪であったがお互い気にしていないのかもしれない。
「軟弱な体してんなぁ」
「お前それ授業出てから言えよ」
「知った事じゃねえな」
「不良め……なあ」
ふと昴は空を仰いだ。理由はある。澄んだ夜の空気に混じっている不穏な香り。ここ数日のパトロールでは感じなかった嗅覚への反応。
「アレ、なんだ?」
澄み渡った空に届く淀んだ空気。それはゆっくりと天を目指しているようで。
「煙……!」
「現れやがったな!」
遂にその時が来た。この事件の犯人と対面する時が。
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