第2話「異世界での生活」02
昴は走っていた。よもやこのような事になるとは思っていなかった。気が緩んでいたのか、それとも。
「ごめんな、レイまで走らせる事になって……」
わざわざ昴を迎えに来ていたらしいレイセス。昴から少し遅れるように走りながら、言葉を紡ごうとしているがどうやら運動は苦手なようだ。昴の体感ではまだそれ程走ってはいないのだが、かなり大変そうである。
「い、いえ……大丈夫、です……」
「無理するなよ? 時計がないから時間が分からないっていうのは酷いな……時間って言う概念はあるのに……」
レイセスが立ち止まるのを見て、昴も足を止めた。正直な気持ちを言うのなら自分はまだ遅刻をしても許されるだろうが、レイセスに同じ罪を与えたくはない。
「……こっから校舎まで走って最短でも十分くらいだったかな……ギリギリアウトかセーフか微妙なラインだ」
道程は昨日歩いた段階でほとんど覚えた。そもそも迷うようには出来ておらず、基本的には舗装された道が長々と続いているのだが。さすがは王族貴族が通っている学院である。ほとんどの生徒はこの道を通っていくのだろう。
(だけど、俺なら……)
方角。自分の正面を北とするのなら学院は北西。正面には綺麗に舗装された道が続いてる。それを囲むように植えられた草花。手入れの行き届いた庭園だ。見た事もないような草花が咲き誇り、香りも良い。昴はすぐに打開策を思い付く。だが、これにレイセスを巻き込むのはどうなのか。いや、考えている暇はないだろう。
「よっと……」
「え、スバル? どこに?」
「最短で突っ切るにはこっちの方が良いはず……別に俺は遅れても良いけどレイにそこまで付き合ってもらうのは悪いから……だから、俺は何が何でもレイだけは間に合わせる」
植木を飛び越え脇道に。昴はこれからこの舗装はされていない道を走ろうと言っているのだ。ただやはり姫であるレイセスはこういう事になれてはおらず。
「でも、そちらは歩くには難しいような……」
「だよな。言うと思った。だったら俺が背負ってでも連れてく」
「せ、背負う……?」
「問題ないぜ。鍛えてるからな。レイ一人くらいだったら余裕だって」
手を差し出す。しかしレイセスは迷っている。昴が逆の立場なら一切迷う事はしなかっただろうが、どうしても、育ちの違いだろうか。普通ではない道に逸れてしまう事はいけない事なのでは、と考えてしまう。
「大丈夫、明日からはちゃんと起きるから」
「そういう問題ですか……?」
「そういう問題だよ。何も難しく考える事じゃない。頭は柔らかく使わないと。なっ」
「きゃっ……」
意地の悪そうな笑みを湛え、レイセスの腕を取った。まるで悪の道に引きずり込もうとでもしたような感じではあるが、決してそのような事ではない。
(……考え方は人それぞれ。道も一つじゃない)
「酷いですスバル……」
「なあに、バレなきゃ大丈夫さ。それじゃ、行こうぜ」
強引に手を取るだけに飽き足らず、そのまま背中にレイセスを乗せる。本当にそのまま走ろうと言うのだろうか。昴は足元の固さを確認しながら足首を回す。
「あ、あの……やっぱり恥ずかしいので……」
「そこは……我慢でお願いします」
耳元で聞こえるレイセスの声に今更ながら羞恥心が込み上げて来るが、今はそのような事を気にしてはいられない。背中が妙に温かいが、それすらも忘れるようにまずはゆっくり歩き出す。
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