第1話「パラレルワールド!?」19
部屋を後にした昴たちは長い廊下を並んで歩いていた。どこまで続いているのか分からない。先が見えないというのは恐らくこういう事を言うのだろう。
「なあ、レイは教室に戻らなくていいのか?」
先程は渋々といった感じで了承していたはずだったが、なかなか離れる様子が無いレイセス。
「途中までは一緒なので……迷惑、ですか……?」
しょんぼりとした顔で目を覗き込まれると、嫌とは言えないのだ。しかしそれでも伝えなくてはならない事というのはある。
「そうじゃないんだけどな? 授業をサボるのは良くないんだぜ?どんなことやってんのかはまったくわからねえけど……うん、サボりは良くないな。俺が言えた義理じゃねえが」
昴はしっかりとレイセスに授業を受けるようにと言い切った。理由としては一国のお姫様がそういった悪行――授業は善行か、と聞かれれば恐らく昴は首を横に振るが――に手を出すのは良くない、と思ったからだ。
「サボりってのは一度でも味をしめちまうと抑制が利かなくなるしな。と、経験者は語ってみるぜ」
「それは、サボリという単語は……授業に出ないことを言うんですか?」
「あ、まずはそこからね……まあ授業に限らず色んなことを何かにつけて休むこと、か。ズル休みだ」
「それは……確かに良くないです! 私、授業をちゃんと受けてきます! それではまた後ほど!」
「おう、行ってらっしゃい」
どうやら昴の言葉はしっかりと届いたらしく、レイセスはスカートを翻し、小走りに駆けていく。それを目で追ってしまったのは男子として仕方ないとしておこう。
「さあて……適当にぶらぶらすっか。時間はどのくらいあるかは知らないが……学校なんだから時計はあるだろ」
そんな甘い考えで昴は校内探索を始めるため、再び歩き出す。
*****
大きな窓から明るい日差しが入り込む廊下を一人歩く。時折、教室と思われる部屋から声が聞こえてくる。そっと中を見てみると、言っている言葉は理解出来るのだが、黒板――昴の知っている物ではこれが一番近いだろう――に書かれている文字や図形はさっぱりわからない。
「言葉だけは何故か伝わるし、わかる。だけど読み書きは出来ねえってか……おいおい、授業どころじゃねえぞ……」
元々それ程得意、という訳ではない勉強。そこに新しく不可解な知識を一から詰め込むとなると、不安しか残らない。
「帰るまでどうにか体裁保たせれば何とかなる……そう信じておくか……」
軽い頭痛に苛まれながらその教室の戸を閉める。ボロは出さないように最低限は学ばなければならないだろう。
「よし、次だ」
ポケットに両手を突っ込み、更に進んでみると今度は楽器のような音色が。恐らく音楽室か何かなのだろう。独特のリズムで奏でられる音色は、どこか楽しげでありながらも、それだけでなく美しさも感じられた。中に居たのは目測で十数名程の女子生徒と一名の教師。それぞれが様々な楽器を手に音楽を形作っている。
「楽器の見た目は……ちょっと似てる、かな? 金管楽器的な……」
真剣にやっているのを邪魔するのは悪いので、ここも早々に離脱。少し楽しくなってきたのか、足取りは軽やかになっている気がする。
「知らない物を見るってのは楽しいな……!」
少々暴走気味かもしれないが、昴の好奇心は止まらない。止められない。
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