第4話 T記者はなぜこのような記事を書いたか

 上毛新聞富岡支局にとっては、富岡製糸場関連以外のニュースを本社に提供するまたとない機会であったのだろうが、T記者の取材力であの取材先(k氏)に挑み、記事を作成するというのはあまりに無謀だ。T記者とk氏を知る者からすれば、まだ竹槍でB29を撃墜するほうが成功率が高いと思える図式だろう。

 

 せめてT記者は正確を期するため、近隣の家にも聞き込みを行うべきだった。k氏ただ一人の話を鵜呑みにし、群馬の読者が気に入るように味付けをして提供した結果が、前話で引用した誤報、誤りだらけの記事である。


 今後、k氏夫妻はリフォームしてその家に住むという。

 上毛新聞曰く『一気に炎にのまれた』自宅に、リフォームを施して住むというのは、果たしてどう意味だろうか。文学的表現、哲学的表現の可能性もなくはないが、難解過ぎて読者には伝わらないことだろう。


 ……即ち、T記者が小説家でも哲学家でもなく、新聞記者として第三話の記事を書いているのなら、焼失した我が家をk氏の住居と錯覚し、記事を書いたのである。火災翌日の記事に大きなミスはなく、私の家が燃えたことはしっかりと書かれていたはずだ。それから一月後に世に出たこの記事の完成度を鑑みると、上毛新聞における取材とは、我々の思う取材と全く別の意味の言葉なのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る