俺はある日、吸血鬼になった。


人々は俺を厭い、迫害し、遠ざける。

決して、俺を近づけさせまいと常に万全の警戒体制をしいている。

俺は孤独のまま一人、闇に隠れるしかなかった。


だが、人目を避け人里離れた山中に隠れること数年、ついに格好の獲物が舞い込んで来た。ハイキングに来て仲間にはぐれた少女だ。


「みんな! ……どこにいったの?」


仲間を捜すのに夢中で警戒心のかけらもない。

今だ!

俺は彼女の後ろから影のように襲い掛かった。


「いやああああ!! 吸血鬼! 誰か助けて!」


俺は容赦なく彼女の首筋に牙をたてる。

……新鮮な血液が俺の体をかけめぐる。


そして、

    少女は吸血鬼になり、

    俺は人間になった。


打ちひしがれた少女は全く動かない。

俺は全力でその場を逃げ出した。

俺は『解放』されたのだ。

そう、今度は、『彼女の番』なのだ。


喜びにつつまれた俺は走りながら、嬉々として叫ぶ。


「大変だ、みんな逃げろ!! 吸血鬼が出たぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る