テロリカ5

 空間湾曲型転送門を使って魔王が封印されていた洞窟の奥まで来ました、以前来た時と同じように空気がひんやりしていて、涼しい。

 結界は先生が解除してしまったけど、結界を構築していた術式自体はそのまま残っているので、割と簡単に封印を施すことができるでしょう。

 術式を修復して、封印したい歴史書を結界の中に置いて、結界を完璧に閉じる。中からも外からも、絶対に開かないように術式を書き換え洞窟から外に出た。

 あんなものが無くても私は今までのことをだいたい覚えているし、見返す必要もない。

 封印を施した後も、すぐには帰らず少し、あの歴史書に書いてあるであろう昔のことを思い出してから帰ろうと、そう思った私は洞窟の脇にある小さめの岩に腰かけ、生まれたときのことから順番に思い出して行く。

 私が生まれたときには、両親は生まれた私の白髪に驚いたらしい、ということを昔、両親から聞いた。これ、珍しい病気で体に本来あるべき色が失われてしまってるらしいんですよね。目だけは真っ赤になるらしいですけど。この病気のせいで私は小さい頃、今も十分小さいんですけど、十歳ぐらいまではずっと友達もいなくて、部屋の中で遊んでたんですよね。そのせいで体も弱くて、あんまり運動できる子でもなかったし。

 六歳ぐらいからは聞いた話以外にも自分で思い出せることが多い。

 このころはあまり外出せず、家で本を読んでいることが多かったんですよね、読んだ本のタイトルも結構思い出せる。こうやって思い出してみると、久しぶりに読み直したくなりますね。本なのだから、リベルの図書館にあるだろう。あとで、リベルに探してもらおうかな。

十歳を過ぎたころから、私が読む本は少なくなった。私に話し相手ができたのだ。

彼は何故か私の部屋に突然現れ、私に見つかった時にものすごく慌てていたのを覚えている。最初は私も驚いて、怪しいおじさんが私の部屋にいるって両親を呼んだが、両親には見えていないようで、両親には気味悪がられてしまった。

以前読んだ本に、自分の妄想が周りからは見えない友達を生み出して、それと会話するキャラクターがいたことから、その怪しいおじさんも私の寂しさから生み出された仮想の友達だと思っていた。直接本人に、「私の妄想から生まれたのなら、なんでもっとかっこいい男の子じゃないの?」とか言ったりしたこともあった。そのとき彼はなんて返してくれたんだっけ。「そんなこと言わないでよ」とか悲しそうに言ってたような気がする。

十一歳を過ぎたころ、私はベッドから起き上がることができなくなっていた。

元々、弱かった体が軽い風邪から、弱っていき、より重い病気を引き起こしてしまったのだ。ベッドから動けない私の元に彼はあまり現れなくなり、最後に会ったのは死ぬ直前。彼が現れ、体中の激痛にうなされる私に言った。

「苦しいかい?君はそのまま死んでしまうだろう。せめてその苦しみを長引かせないようにすることぐらいしか、私には出来ないんだ」

 当時の私には何を言っているかわからなかったが、この苦しみを消してくれるというのなら、消してほしいと願った。

「ごめんね」

 それが生前の私が最後に聞いた言葉だった。

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